総評

 

 戦後70年を過ぎて戦争を知る世代がかなり減少してきている。私が子供の頃は60歳以上は戦争に行っていた。当時の司令官、参謀クラスもまだご健在であったが現在ではもう佐官でご健在の方も少ない。その点、本書は当時参謀をしていた人の貴重な記録であり、連合艦隊の上層部からみた太平洋戦争という点で貴重な本だ。

 ただ、内容は太平洋戦史の教科書的な内容であり、各作戦への評価も著者独自の見解というものはあまり見られない。実際に現場にいた人間しか分からない迫力や緊迫感等もあまり感じることができないが、逆に客観に徹しているともいえる。

 ただ、戸高一成著『聞き書き・日本海軍史』の中島親孝氏の章にあるように海軍士官はジェントルマンであり、直接の批判というものはあまりしないようだ。ここら辺は評価の難しいところだ。

 もし本書を購入するとしたら、同時に堀栄三『大本営参謀の情報戦記』も併読することをお勧めしたい。陸軍参謀と海軍参謀、さらにそれぞれの個性が分かるので両者の比較をしてみると面白い。

 

書評

 

 アマゾンの紹介で何となく買ってしまった本書、著者の中島氏は1935年に初めて水雷参謀になって以来、終戦まで参謀一筋というある意味変わった経歴の持ち主である。その参謀専門家の著者が日本海軍の内部からの視点で見た太平洋戦争はどんなものだったのかということが分かる貴重な本である。

 著者は連合艦隊や艦隊参謀という前線での参謀経験が多かったことからだろうか、戦略的なことに言及することはあまり多く無く、戦術的な視点で時には司令部の作戦を批判的に書いている。これは同じ参謀であった堀栄三氏が太平洋戦争を日米の戦略、引いては戦争哲学の違いまで言及しているのとは異なる。

 しかし海軍の前線司令部の参謀の記録という点では貴重な資料だと思う。内容で目を引くのが著名な司令官や参謀の人間観察である。基本的に著者は批判的な性格なのだろうか、全体的に人物評も批判的であるように感じる。ただし、黒島亀人参謀が月一回しか風呂に入らず、真っ暗にした部屋で構想を練るという有名な話以外にも「ガンジー」というあだ名で呼ばれていたこと、開戦時の第一航空艦隊参謀長草鹿龍之介が非常な勉強家であるが、決断力が無いということを暗にほのめかしたりもしていたり、栗田健男中将はいつも逃げ腰だというような話は面白い。

 実際の参謀としての職務では、当時から現在言われているような真珠湾攻撃の問題点を指摘していることや、ラバウル攻略に際して、ラバウルを攻略することによって今度はラバウルを守るために周辺を攻略しなければならないこと、そしてそれが際限ないことなどを指摘している。さすが参謀と思える的確さである。

 著者中島親孝氏は海軍兵学校を席次4番で卒業、海軍通信学校高等科を首席卒業、海軍大学校で高級幹部を養成する「甲種学生」を卒業したという海軍のエリートである。全体的に秀才の頭の回転の速さは感じるが、ちょっと評論家のようなただ批判だけをするような印象も受けてしまう。本書は不思議と当事者の割には緊迫感が伝わってこない。現場にいたといっても参謀という前線の中では後方にいたこともあるかもしれない。特攻隊に関してもどこかしら他人事のように感じてしまう。

 堀氏のように情報を徹底的に分析する「情報職人」という感じではなく、通信情報を常識的に判断しているだけと感じる。申し訳ないが同じ情報参謀ということでどうしても比較してしまう。堀氏は文章によるアピールがうまいという点もあるだろうし、私自身に知識や考察力が不足しているからかもしれないが、本書では新しい視点や価値観、知識というものは得られなかった。全体的にちょっと辛口になってしまったが、前述のように連合艦隊の参謀の書ということで貴重であるのは間違いない。

 

 

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