(画像はwikipediaより転載)
おすすめ本5冊
生出寿『勝つ司令部 負ける司令部』
本屋にいったらあったので何となく購入。著者は海軍兵学校74期生の海軍士官。74期なので恐らく実戦は経験していない。本書は日露戦争当時の連合艦隊司令部と太平洋戦争時の連合艦隊司令部を比較したもの。東郷平八郎と比較して山本五十六がどれだけ駄目だったのかという内容。著者がかなり山本五十六を嫌っているのが分かる。
確かに山本五十六が実戦指揮官として能力が高かったのかと言われれば微妙ではあるが、さすがに厳しすぎるのではないかと感じる。著者は航空機中心の戦略に関しても否定的で戦闘機で防空を万全にして艦砲で敵艦を撃滅するということを主張している。しかしこれは戦闘機の能力を知っている後世の「後出しじゃんけん」という気がしないでもない。
とにかく山本五十六を徹底的に批判しているが、そもそも数年前から準備して出来る限りのことをやった挙句に開戦した日露戦争と日中戦争で国力が消耗している状態でありながら「空気」で始めた太平洋戦争という時代の条件が違い過ぎる。さすがに山本五十六には少し酷な気がする。
豊田副武『最後の帝国海軍』
帝国海軍最後の軍令部総長であった豊田副武大将の回想記。全体的に言い訳に終始している感はある。戦前の戦艦大和の建造に対しての批判に対して、航空機を大量生産したところで物量では勝てない故に質で勝負するという発想だった等、興味深い話もある。
対米戦争は海軍は勝てないと明確に言わなかった及川海軍大臣を痛烈に批判しているが、自身も連合艦隊司令長官だった時代に「勝ち目がないとは立場上言えない」と及川大臣と同じことをしてしまっていたり、終戦時に徹底抗戦を主張したのは徹底抗戦派の軍人たちを暴発させないためであったが実は終戦を願っていたという趣旨のことを発言しているがさすがにちょっと情けなく感じた。
結局、米内光政大将は理解してくれなかったと不満を漏らしているが戦前に命がけで三国同盟を阻止しようとした米内からしてみれば仮に豊田大将の言葉通りだったとしても理解することはなかっただろうと思う。世界三大海軍の一つであった日本の終戦時の海軍の頂点にいた人間がどのような人であったのかを知る貴重な記録ではある。
猪瀬直樹『昭和16年夏の敗戦』
戦前に存在した総力戦研究所のノンフィクション。太平洋戦争開戦前に将来を嘱望されている有能な官僚が各省から集められた。彼らはデータを駆使して合理的に対米戦のシミュレーションを行った。驚いたことにその分析は、原爆の使用を除いてはほぼその後の歴史を正確に見通していた。
しかし開戦を求める「空気」に支配された日本、東条首相の「戦というのは計画通りにはいかない。意外裡なことが勝利につながっていく」と総力戦研究所の分析結果を否定、開戦に踏み切っていく。日中戦争を戦っている上に対英米戦争を行うというかなり非常識な決断を行った当時のトップエリートたちの内側が分かって興味深い。
藤田信雄『わが米本土爆撃』
あまり知られていないが太平洋戦争中に米本土を爆撃した唯一のパイロットの記録。著者の藤田信雄氏はかなり筆まめな性格で細かく日記をつけていた。その日記を抜粋して書籍化したもの。藤田氏は開戦時にすでに実戦経験を積んだ超ベテランパイロットであった。太平洋戦争開戦時には潜水艦搭載水偵「潜偵」の操縦員として実戦に参加する。
この潜偵に目を付けた海軍上層部はドーリットル隊の日本空襲の報復として米国の森林地帯への爆撃を潜偵で行うことを計画する。ベテランである藤田氏は2度も米本土爆撃を無事に成功させた。しかし米国の実際の損害はほぼ皆無であり、戦略的にも戦術的にも効果は無かった。このような確実に無意味である「報復」作戦に貴重な潜水艦と熟練搭乗員を危険に晒す日本海軍とは如何なものかとつい考えてしまう。やはり日本は「情」の国なのだろう。
猪瀬直樹『ピカレスク』
戦争関係とは全く関係のない一冊。太宰治とは明治生まれで戦争を挟んだ時期に活躍した作家。『人間失格』等で有名である。太宰治を分析した本は把握できない程あるが、それらはどれも太宰の小説を分析したものである。本書の著者である猪瀬直樹氏は小説を分析するという従来の方法を使用せずに徹底的な調査を基に本当の太宰治に迫る。
その結論として、太宰治は本気で自殺する気はなく、ひたすらに偽装自殺を繰り返していたというもの。しかしそれを以て太宰治が「偽物」ということにはならない。作家が自ら死のギリギリの線まで行き、その体験を小説にする。むしろ小説家としての凄まじい生き様が感じられる。物書きとしての凄みを感じる。
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