元零戦搭乗員今泉利光氏へのインタビューを基に上梓された本。今泉氏は丙飛16期。1943年に訓練が始まり、1944年3月に修了したという実戦部隊に配属された時点ではほぼ日本が負けていた。故にこの今泉氏の空戦談は巷のエースパイロットの話とはかなり違う。撃墜どころか撃墜されないように戦場を飛び回っていたという。時期が時期だけにどうしようもないことだった。
今泉氏は比較的戦闘が激しくない海南島に配属されていたからなのか1944年前半まではまだ日本は勝てると感じていたという。最前線のラバウルで死闘を繰り広げていた岩本徹三の著書では1943年段階でもう勝ち目がないと語っていた。ビルマ戦線では陸軍の飛行戦隊が1945年初頭までは連合国軍機と互角に戦っていたりと、地域によって状況が違うことに起因する感覚の違いというのは面白い。
敵機撃墜は激ムズ
今泉氏も小町定氏と同様に50機撃墜、60機撃墜というのは不可能だと主張する。特にF6Fヘルキャットに関しては零戦の性能、機数から考えても撃墜するのは困難だという。今泉氏の先輩であり、上官であったベテラン搭乗員江馬友一飛曹長の話が搭乗するのは興味深い。江馬氏は有名な撃墜王岩本徹三、西澤廣義らの教官クラスのベテランパイロットで戦史研究家の梅本氏の調査によるとラバウルでも実際に戦果を挙げている凄腕パイロットだ。
性格は至って謙虚で功を誇らなかったが、今泉氏の目の前で撃墜困難と言われるF6Fを撃墜したという。今泉氏は江馬飛曹長を尊敬しており、随所に江馬飛曹長の話が搭乗する。それ以外にも評判が悪かったと言われている零戦52型丙は、実際には高性能であったことや九州人のパイロットはすぐに戦死するというような意外な話もある。
以下の本も参考にどうぞ↓
梅本弘『ガ島航空戦』上
本書は私にとっての名著『海軍零戦隊撃墜戦記』を上梓した梅本氏の新刊である。本書の特徴は著者が日米豪英等のあらゆる史料から航空戦の実態を再現していることだ。これは想像通りかなりのハードな作業だ。相当な時間がかかったと推測される。
角田和男『修羅の翼』
私が好きな海軍戦闘機パイロットの一人角田和男氏。エースリストでは撃墜数9機となっていたはずだ。実際に何機だったのかは分からないが、映画やアニメと違って実際には、ほとんどのパイロットは1機も撃墜しない。その中で敵機を1機でも撃墜したというのはすごいことだ。著者は他のパイロットと違い大空への憧れというのは全くなかったという。家計の負担にならないように志願したのが予科練だった。日中戦争、太平洋戦争と戦ったパイロットだが、戦争後期には特攻隊に編入されてしまう。ベテランであっても特攻隊に編入されることがあったのだ。
著者は日記を付けていたらしく、さらに執筆時には事実関係を確認しつつ執筆したという本書の内容はかなり詳しい。ゴーストライターを使わずに自身の手で書き上げた本書の重厚さは読むとすぐに分かる。分厚い本であるがとにかくおすすめだ。本書の比島の部分に西澤廣義と岩本徹三という二大エースが議論になる部分がある。巴戦(ドッグファイト)に参加しない岩本徹三に対して西澤は、
「岩本さん、それはずるいよ」
「でも俺が落とさなきゃ奴ら基地まで帰っちゃうだろ」
それぞれの戦い方が分かるやりとりが面白い。
ヘンリーサカイダ『日本海軍航空隊のエース1937‐1945』
これも定番。ヘンリーサカイダは米国の戦史研究者。初版が1999年なので『日本海軍戦闘機隊』よりは新しい。同様にエース一覧表があるが、『日本海軍戦闘機隊』のものより精緻で、今まで知られていなかったエースの名前も見える。当時の搭乗員に直接インタビューもしてたり、独自取材もしている。大原亮治飛曹長のことを「ラバウルの殺し屋」と書いて抗議されたのも本書だったはず。航空機のカラー絵も多い。
日本海軍戦闘機隊―付・エース列伝
1975年初版の海軍のパイロット好きには必携の本。撃墜王、エースの一覧表、主要搭乗員の経歴、さらには航空隊史、航空戦史まで網羅している。2000年代に再販されているが、その際にエース列伝と航空隊史・航空戦史が分冊となってしまった。古くてもいいから1冊で読みたいという方にはこちらがおススメ。
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