01_大阪市
(画像はwikipediaより転載)

 

要約

 

 「大阪都構想」とは政令指定都市大阪市を廃止する制度のことで名称が「大阪都」と変わることはない。さらに「都構想」によって予算が増えたり支出が削減されることはほとんどない。「大阪都構想」の本質は、大阪市を廃止することで府知事への権限を集中させることである。これにより大プロジェクト等が実行しやすくなるが、この改革のために240億円という費用が必要となるのが問題である。そして一度大阪市を廃止してしまえば法律上、基に戻すことはほぼできない。

 

東京市廃止の理由

 

02_東京市役所
(画像はwikipediaより転載)

 

 東京市とは1889年に東京府の15個の区を統合して誕生した自治体である。当初市長は東京府長官と兼任であったが、1898年に官選による市長が選任されるようになり、1926年からは東京市議の互選により市長が任命された。それまで自治権を持っていた東京市であったが、1943年7月には戦時体制下において強力な集権体制を作ることを目的として東京市が廃止、東京都が設置された。東京市廃止の3ヶ月後の1943年9月30日には絶対国防圏が設定されていることからも東京市の廃止が空襲へ対処するための強権体制であったことは想像できる。

 

「大阪都構想」

 

03_大阪市役所
(画像はwikipediaより転載)

 

政令指定都市とは

 政令指定都市とは人口50万人以上の都市で全国に20都市存在する。1956年に制定された制度で「田舎」とは人口密度も経済的な条件も異なる大都市に特別な権限を与え、独自の行政サービスを行うことを理念としている。つまり人が閑散としている田舎と大都市は条件が全然違うのでそれぞれの特性に合わせて独自の行政を行おうとする制度である。この制度を経済的に担保するために、独自の財源や国からの地方交付税も交付される。

 

「大阪都構想」

 「大阪都構想」とカッコ付きで表現した理由は、「大阪都構想」とは単なるキャッチコピーであり、住民投票によって「都構想」が可決したとしても表記上「大阪都」とはならず、表記上は今まで通り「大阪府」である。それでは「都構想」とは具体的にどういう改革なのかというと、これは単に政令指定都市大阪市を廃止することである。ここで大阪市廃止の問題点について簡単に説明してみたい。

 

二重行政の解消

 大阪市廃止の議論で真っ先にメリットとして挙げられるのが二重行政の解消という問題である。これは同一の行政サービスを府と市が重複して行うことを防ぐことができるというものである。これにより無駄な支出が削減され財政負担が軽くなるとしている。しかし廃止後も同一水準のサービスが行われることはすなわち同レベルの支出を必要とするものであり、人員整理やサービスの廃止をしない限り支出が削減されることはない。そもそも二重行政を解消したいのであれば、重複しているサービスの一方を廃止すれば良いだけの話である。廃止した自治体は財政負担が軽減されるので好都合である。

 

住民サービスが向上する

 財源が増える訳ではないので向上はしない。現状が維持されるか低下するかのどちらかである。

 

大阪の経済力が増す

 何も変わらない。東京都と同じ制度に変更したからといって税収が増える訳ではない。東京都の予算が潤沢なのは、人口の多さと大企業の本社が集中しているためであって行政制度の結果ではない。

 

政策を強力に推し進めることができる

 これは可能である。大阪市を廃止することで大阪市の財源の大半を大阪府が管理することになるため大阪府知事の権限が増す上、大阪市長が存在しなくなるため大阪府知事が提案した政策はスムーズに運びやすくなる。行政区分の「垣根」が無くなるため幹線道路等の行政区分の問題が起こりやすいプロジェクトは円滑に進むようになる。但し、現状でもプロジェクトを実行することは可能である。

 

大阪市以外の大阪府民にとってはメリットになる可能性もあり

 それまで大阪市民のために使われていた膨大な予算の多くが大阪府の管理なるため大阪府知事の政策によっては大阪府民への行政サービスは向上する可能性があるが、当然、予算は限られているのでこうなった場合、大阪市民への行政サービスは低下することになるが、大阪府民として同等のサービスを受けることができる。

 

片道切符である

 現行法上、政令指定都市を分割して特別区を設置することは可能であるが、特別区を政令指定都市にする法律はない。このため一度、政令指定都市から外れると大阪市を復活させることはほぼ不可能である。仮に特別区を政令指定都市にする新法を作ったとすれば、その新法は東京の特別区も対象になるため東京市が生まれる可能性がある。これは「東京市」以外の地域に在住する東京都民の多くが猛反対する可能性が高い。東京都の人口は日本の人口の1/10を占めるため立法化は難しい。

 

まとめ

 

 巷でいわれているような「二重行政の解消」による支出の削減という効果はほぼないといっていい。仮に二重行政が行われているのであれば現状でも解消が可能であり、わざわざ政令指定都市を廃止する必要はない。「都構想」の一番のポイントは、東京都が設置された理由からも分かるようにそれまで府と市に分散されていた権限を府知事に集中させることである。これにより大プロジェクトが実行しやすくなるが、同時に制度を変更する経費として240億円が必要とされる。

 「大阪都構想」とは最も端的にいえば、「240億円の費用をかけて大阪府知事の権限を強化する制度」と結論付けられる。

 

⇒歴史・戦史一覧へ戻る

 

amazonで大阪都構想を探す

楽天で大阪都構想を探す

 


「大阪都構想」ハンドブックー「特別区設置協定書」を読み解く
大阪の自治を考える研究会
公人の友社
2020-07-22


 


ミリタリーランキング