01_突進
(以下画像はwikipediaより転載)

 

要約

 日本は開国後富国強兵政策で国力を増した。そして台湾、朝鮮半島と支配地を増やし中国の権益を欧米と取り合う。1930年前後に満州を勢力圏に入れ、華北へと食指を動かす。日中戦争が始まると戦火は拡大したために仏印に進駐したことによって太平洋戦争が始まる。日本は東南アジアを占領するが一部の国の独立しか認めていない。日本は白人支配からのアジア解放が目的ではなく国益を最大化していただけ。

 

欧米による植民地支配からの解放

 

13分頃から話している内容ね。リンクを貼ることにした(・ω<)(エヘへ)

 

背景

 先日、と言っても相当前になるけどワシはYouTubeを観ていた。そのYouTuberである整形外科医はいつも客観的で妥当な意見をいうのでそれなりに楽しく観ていたのだ。ところが歴史観になったらビックリだ。「日本は白人支配に対して孤軍奮闘して戦っていた」という夢のようなことをおっしゃる。どう歴史を学んだらそうなるのかが分からない。

 どうもその人の歴史観だと世界は白人が植民地にしまくっており、その中で日本は富国強兵政策をとり植民地にならずに済んだ。そしてアジアの中で白人の人種差別と闘って日本は第二次世界大戦で負けたものの世界の植民地を解放したという趣旨のことをおっしゃっておった。まあ、大航海時代以降、白人が植民地を拡大して行った先で残虐行為をしていたのは事実だ。日本が開国後富国強兵政策で植民地とならずに済んだというのも事実。

 しかしだな。日本は開国すると1876年には朝鮮に対して日朝修好条規という不平等条約を結ばせている。1895年には日清戦争をするがその結果、台湾を清国から分捕ってしまっている。この二点を観ても日本がやっていることはアジアの解放では全く無いというのは分かるのではないか。あまりにモンモンとするのでここから日本の対外関係史をザ〜と見てみよう。

 

日清戦争から日露戦争へ

 日清戦争により清国の弱さが露呈するとヨーロッパ諸国は容赦ない。以前から清国に利権を持っていた英国に加え、ドイツ、フランス、ロシアが中国の利権に食い込んできた。ロシアに至っては1858年のアイグン条約や1860年の北京条約で黒竜江以北、沿海州を領有した上にさらに遼東半島南部を領有した。

 1900年に清国で義和団が外国軍に対して立ち上がると日本はヨーロッパ諸国と共に鎮圧に参加する。そう鎮圧してるの。アジアの解放のためであればむしろ白人国家と日本は戦うはずなのだが一緒になって鎮圧している。

 その後、南下してくるロシアに危機感を持った日本は英国と日英同盟を結んだうえで1904年には日露戦争が勃発。勝利と言えるのか微妙であるがロシアを満州から撃退することに成功した。この時日本は樺太全土を占領している。1905年には終戦。ポーツマス条約で南樺太の領有とロシアが持っていた遼東半島南部の租借権を獲得している。清国に返還したりなんて絶対にしないのだ。

 このポーツマス条約で重要なのは日本が朝鮮半島の支配権をロシアに認めさせたことだ。これ以前にも日本は1905年の第二次日英同盟、同年の桂タフト協定によって朝鮮半島の支配権を英米に認めさせている。1905年にはロシア、英国、米国に対して朝鮮半島の支配権を認めさせることに成功したのだ。そして数度の日韓協約で朝鮮の自治権を奪い1910年に日韓併合を行っている。白人支配からのアジアの解放どころか完全に併合してしまっている。

 

第一次世界大戦でも権益獲得

 さらに第一次世界大戦が勃発すると日本は連合軍として参戦。山東半島と南洋のドイツ権益を占領する。そして1915年には当時の中華民国の実力者袁世凱に対して二十一ヶ条の要求を突きつける。内容はドイツ権益を日本によこせ等の酷いものだった。しかし国力の弱い中華民国は承諾するしかなかった。この時点で日本は中国人から相当反感を買っている。これは1919年のパリ講和会議で中華民国が抗議しているがヴェルサイユ条約ではドイツ権益の日本への継承が認められた。

 しかし1922年のワシントン条約では山東半島のドイツ権益は中国へ返還することとなったが南洋諸島の権益は日本が継承した。むろん日本は南洋諸島を解放して自治にゆだねるなんて甘っちょろいことはしない。サイパン、トラック諸島などを来るべき日米戦争の拠点として整備した。

 ここまでの歴史をみても分かるように日本は白人からアジアの解放のために戦っていた訳ではない。他の国と同様に自国の利益を最大化するために戦っているのだ。もっと悪い言い方をすれば自国の安全保障のために朝鮮半島を征服、台湾を征服、その上で白人国家と共に中国利権をあさっているだけだ。

 

満州国建国から華北分離工作

 この時期、中国は1912年に中華民国が成立したものの1921年には中国共産党が誕生、各地に軍閥が割拠する戦国時代の様相を呈していた。日本は満州に権益を持っているため満州を拠点とする張作霖に近づくが、1928年に満州を直接支配するために張作霖を殺害した。

 さらに1931年には満州事変が勃発。日本軍が満州全域を制圧して清朝最後の皇帝を擁立し満州国の建国を宣言した。これは日本の傀儡国家であったために国際連盟で認められるはずもなくかったが激怒した日本は1935年に国際連盟を脱退した。この満州での一連の戦闘の相手は白人国家ではなく中国の軍閥である。まあこれは大変好意的にみれは満州国が建国されてその皇帝に清朝最後の皇帝が就いたのだからアジアの解放と言えなくはない。但し、それ以前に満州を支配していたのも中国人であったが。

 日本が国際連盟を脱退した1935年、関東軍は中国北部の華北といわれる地方の支配をするために華北に傀儡政権を樹立、翌年には日本政府も華北分離を国策として決定する。これは純粋に侵略なので中国では救国運動が発生、内戦をしていた国民党と中国共産党は戦闘を中止。共通の敵日本と戦う決意をする。

 

日中戦争と太平洋戦争

 1937年7月、盧溝橋での日本軍と中国軍の衝突から日中戦争が始まる。戦火は拡大するが国民党は首都を重慶に移し徹底抗戦をした。1940年、日本は国民党軍の補給路を断つために北部仏印進駐、同時にドイツ、イタリアと軍事同盟である日独伊三国同盟を締結、1941年には南部仏印進駐を行った。そして同年末に日本は対英米戦争に突入する。

 ここまでが日本が太平洋戦争に突入するまでのできごとだ。時系列に沿って書いたがここまでの日本の行動もまたアジアを解放するために何もしていない。遼東半島の一部から満州全体にそして華北へと純粋に支配地を拡大しているだけだ。

 太平洋戦争開戦後、日本は香港を占領、英領マレー、シンガポール、ボルネオ島からオランダ領インドネシアと占領地を拡大する。戦争の大義は当初は自衛のためとしていたが途中から欧米による植民地支配からの解放となった。植民地支配からの解放という大義を掲げ、フィリピンやビルマ等の数か国の独立は認めたものの戦略の要地であるシンガポール、香港、石油が産出するインドネシア等の独立は認めなかった。

 

結局どの国も国益を最大化しているだけ

 そして1945年8月、日本は連合軍に敗北する。これがザ〜とみた開国から太平洋戦争終戦に至るまでの日本の対外関係史だ。日本が主に戦っていたのは中国だ。日清戦争から日露戦争、第一次世界大戦に満州事変、華北分離工作、日中戦争と太平洋戦争。対外戦争の相手国はほとんどが中国である。日露戦争も対戦相手はロシアであるが戦闘は中国国内で行われ、戦争の結果、中国の権益をロシアから継承した。

 太平洋戦争も同様だ。白人国家の横暴に正義の日本が立ち上がったのではなく日中戦争の戦局を打開するために仏印進駐をしたのが直接の原因だ。その結果、日本は米国という虎の尾を踏んでしまったのだ。戦った相手である中国は有色人種国家であり、同盟を結んだ英国やドイツ、イタリアは白人国家であった。白人に対して孤軍奮闘して戦っていた訳ではない。明白ではないか。

 だからといって日本が悪で欧米は善という訳ではない。欧米がどれほどえげつないのかは歴史をみれば誰でも分かる。同時に日本も善ではなく一緒になって植民地を取り合ったというだけのことだ。要するにどっちもどっち。同じ様なものだ。

 

 

歴史を勉強していない?

 「日本は欧米による植民地支配からアジアを解放した」という考えを主張する人はかなりの頻度で日本人は歴史を勉強していないというが、ここまで私が書いたことはほぼ山川の高校教科書に書いてあることだ。それも極力解釈を抑えて事実を列挙した。この流れをどうみれば日本が植民地支配からアジアを解放したとなるのか理解に苦しむ。勉強しなければならないのは高校の教科書すらもまともに読んでいないアンタらだとワシはいいたいね。

 こういった主張をする人達は歴史の流れが理解できていない。特に日露戦争後から太平洋戦争開戦までの間の出来事、流れが完全に欠落しているようだ。「日露戦争=ロシアと戦った」「太平洋戦争=英米と戦った」だから白人対有色人種の戦いだと単純に考えているのではないか。日露戦争では日本は英国と同盟関係にあったし、太平洋戦争ではドイツ、イタリアと同盟関係にあった。日本が同盟を結んだのはどれも白人国家であり、それだけでも白人対有色人種という単純な図式は成立しない。

 

何でも嫌な現実がある

 そもそもだね。過去も現在も国際関係というのはそんな綺麗ごとではない。少しでも油断すれば外国にあっという間に占領されてしまう弱肉強食の世界だ。どの国も生き残るため、国力を増すために必死だ。「欧米による植民地支配からの解放のために立ち上がった正義の日本」というようなロマンティックな物語が通じる世界ではない。

 理想と現実は異なるのだ。それは私達が普段生活している世界全てがそうだ。何でも美しい表面とそうでない現実がある。それは歴史でも同じ。そうであって欲しい歴史とそうじゃない事実がある。心地よいファンタジーの世界に浸っていても仕方ない。ワレラは面倒な現実を生きねばならんのだ。

 

参考文献

  1. 詳説世界史 改訂版 山川出版社 2022年
  2. 詳説日本史 改訂版 山川出版社 2022年

 

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