最近、『海戦からみた太平洋戦争』という本を読んだ。著者は戸高一成氏で「大和ミュージアム」館長をされている方である。戸高氏は戦後の生まれだが海軍の関係者に知り合いが多く歴史にも造詣が深い。このため内容は濃厚でかなり読み応えがある本となっている。
本書は大きく四部構成になっており、太平洋戦争初戦期、中盤期、後期、末期となっている。内容は基本的に海軍の問題点を指摘したもので、私が知っている限りでは本書で初めて知った情報や独自の分析結果が秀逸だ。私が一番興味を持ったのは、真珠湾攻撃やミッドウェー海戦、その他多くの作戦がある時は連合艦隊司令部と軍令部、陸軍と海軍というように上層部間でそれぞれ別個の目的を持って行われたということだ。
例えば、真珠湾攻撃に関していつも問題になるのが、第二次攻撃を行わなかったことの賛否であるが、本書では山本五十六を長とする連合艦隊司令部と海軍の作戦全般を作成する軍令部との見解の相違があったという。連合艦隊司令部は真珠湾攻撃の目的は軍事力の象徴としての戦艦を撃沈することによって米国民の戦意を失わせること。それに対して軍令部はあくまでも南方作戦を行う間、米艦隊を足止めするのが目的であった。
軍令部としては一時的に戦艦部隊が使用できなくなればよく、二次攻撃の必要を認めず、山本も南雲司令長官に自身の作戦目的を伝えていなかった。このことから南雲中将は、命令通りに目的を達成し帰還しただけであるという。さらにミッドウェー海戦ではフィジー、サモアに進出を考える軍令部とミッドウェーを占領しハワイ攻略を考える連合艦隊司令部の間で作戦の目的が異なっていた。連合艦隊としてはミッドウェー基地攻略のための作戦、軍令部としてはフィジー、サモア攻略のために米国機動部隊を撃滅するのが目的と軍令部、連合艦隊司令部との間で作戦目的が異なっていた。
このことがミッドウェー海戦の失敗の原因であったという。さらにソロモン方面での戦いはフィジーサモアを攻略するというFS作戦が中止されているにも関わらず、FS作戦の前段階であるガダルカナル島での飛行場建設を続けていた。ガダルカナルが攻略され、その奪還作戦においても、機動部隊には「ガダルカナル島奪還と共に敵機動部隊を撃滅」という二つの目標が設定されていた結果、機動部隊は陸軍のガダルカナル島奪還作戦を支援することが出来なかった。
以降も作戦計画や人事等のソフト面での海軍の問題点が原因で効率的な戦闘が行えなかったことや日本海軍の砲撃が実際にはほとんど命中していなかったこと、さらに酸素魚雷の性能があまりにも良すぎたために日本海軍は水雷戦に敗北した等、面白い指摘である。本書は800円程度という低価格の割には内容が濃い。書籍や史料からの情報だけでなく、直接関係者から聞いた情報も多く含まれているので内容に迫力がある。私は時間をつぶすために本書を購入したのであるが、何時間もかけて熟読してしまった。それほど面白い内容であった。
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