01_シブヤン海で攻撃を受ける武蔵
(以下画像はwikipediaより転載)

 

要約

 レイテ沖海戦で栗田艦隊はレイテ湾に侵入直前で反転したが、突入していたところで満身創痍の日本艦隊は万全の体勢で待ち受けている米戦艦部隊や航空機の集中攻撃を受けて壊滅する。この反転が問題となるのは戦艦大和の戦闘力を過大評価した結果である。

 

もしも栗田艦隊がレイテ湾に突入していたら

 

レイテ沖海戦だよ

 みんな大好き『もしも』シリーズだよ!今回の『もしも』はレイテ沖海戦。もしもレイテ沖海戦で日本戦艦群がレイテ湾に突入していたらどうなっただろうというシミュレーションをしてみたい。「シュミレーション」ではなく「シミュレーション」なので間違いないように注意が必要だ。他にも「ファーストフード」ではなく「ファストフード」、「アフェリエイト」ではなく「アフィリエイト」であることも重要だ。

 これらを確認した上で本題に入ろう。やはり言葉の定義は重要だからな。レイテ沖海戦に関しては以前、命を削り血を吐く思いで書いた記事(うそ。ほぼwikipediaをまとめただけ)があるので詳しくはそちらを参照してもらいたいが、一応ざっとレイテ沖海戦の概要を説明しておこう。

 レイテ沖海戦とは1944年10月25日あたりにフィリピン近海で行われた日本帝国海軍と米海軍を中心とする連合国海軍との海戦だ。名前だけみると一つの海戦のようだが実はエンガノ岬沖海戦、シブヤン海海戦、スリガオ海峡海戦、サマール沖海戦という4つの海戦の総称だ。ここらへんは「えへん!レイテ沖海戦では〜」とか言うと「はぁ?どのレイテ沖海戦ですかぁ〜?」とかいう最近流行りの論破野郎がいるかもしれないので注意が必要だ。

 

台湾沖で米機動部隊壊滅!

 1944年10月中旬に台湾沖で米機動部隊に対する日本海軍航空隊(陸軍98戦隊も参加したよ)による大規模な攻撃が行われる。これがいわゆる台湾沖航空戦だ。米機動部隊を日本本土、フィリピン、台湾という大日本帝国の懐にまで誘い込み満を持して行われたこの航空戦で日本海軍航空隊は、航空機312機を失ったものの空母19隻、戦艦4隻、巡洋艦7隻を撃沈する空前の大戦果を挙げた。日本の罠に米軍が引っかかったのだ!

 このような幻覚を見ていた日本は空前の戦果に沸き立った。空母19隻ということは米機動部隊を完全に壊滅させたことになる。このような状況で日本海軍は捷号作戦を立案した。この作戦は米軍の上陸に対する対抗作戦で捷一号から四号まで4つの作戦を準備していた。捷一号はフィリピンに上陸した場合の作戦、二号は台湾、三号は本州、四号は北海道に上陸した場合の作戦だ。

 10月18日、米軍はフィリピンレイテ島に上陸をすることがほぼ確定した。このため帝国海軍はかねてからの予定通りに捷一号作戦を発動する。

 

出撃準備完了!

02_出撃する栗田艦隊

 

 1944年10月18日、捷一号作戦発動。航空機は台湾沖航空戦やそれ以前の連合軍航空隊の空襲で消耗していたため戦艦を中心とする水上部隊が敵上陸地点に突入して連合軍を木端微塵に粉砕する計画であった。参加兵力は戦艦大和武蔵以下7隻の戦艦を有する第一遊撃部隊(通称栗田艦隊)、重巡洋艦那智、足柄と駆逐艦隊で編成される第二遊撃部隊、マリアナ沖海戦を生き残った残存空母に航空戦艦伊勢日向を加えた機動部隊とその他基地航空隊だ。

 機動部隊が出撃するのであれば機動部隊が海戦の中心になるだろうと思ったら大間違い。この時点では機動部隊といっても名ばかりでマリアナ沖海戦を生き残った空母瑞鶴と軽空母瑞鳳千歳千代田、航空戦艦伊勢、日向だけであった。航空機も不足していたため航空戦艦には航空機は搭載されずその他の空母を合わせても航空機116機が搭載されただけという貧弱な戦力であった。

 このため機動部隊は囮として米機動部隊を引き付ける役割を担わされ、その隙をついて第一遊撃部隊、第二遊撃部隊がレイテ湾に突入するという手筈になっていたようだ。「戦艦部隊は決死の覚悟で突入せよ!でも敵を発見したら海戦を行ってもいいよ」というフワッとした命令の下、全艦隊が出撃することになる。しかしここで燃料補給に問題があり、第一遊撃部隊の内、違法建築でお馴染みの戦艦扶桑山城以下数隻が本隊とは別に西村祥治中将を指揮官として第三部隊を編成、別行動でレイテ湾に突入することになった。

 

レイテ沖海戦

03_レイテ沖海戦図02
 上掲の驚くほど精密な海戦図はGooglemapをベースにワイがマウスで描いたもの。あまりの高度な作画技術に驚嘆したと思う。

 

 10月20日、機動部隊が出撃、21日、第二遊撃部隊が出撃、22日には第一遊撃部隊、同日に主隊に遅れて戦艦扶桑以下の第三部隊も出撃する。出撃した第一遊撃部隊は秒速で連合軍に発見され23日には米潜水艦の雷撃により重巡洋艦3隻が脱落、24日にはシブヤン海海戦で戦艦武蔵を失った(シブヤン海海戦)。25日には日本機動部隊が米機動部隊により猛攻撃を受け参加した空母全てが撃沈される(エンガノ沖岬海戦)。

 これを受けて第一遊撃部隊は難所のサンベルナルジノ海峡を突破するが、ここで米護衛空母部隊と遭遇して砲撃戦となる(サマール沖海戦)。砲撃戦終了後にレイテ湾突入を企図するが敵機動部隊発見の報に北上するが敵機動部隊は発見できずに第一遊撃部隊はそのままブルネイ泊地に帰投した。

 本隊とは別に行動した第二遊撃部隊は敵情不明のため帰投。第三部隊は本隊と合流後にレイテ湾に突入する予定であったが本隊が帰ってしまったため単独で突入を敢行、湾内の米戦艦部隊にフルボッコにされて壊滅している(スリガオ海峡海戦)。

 

謎の反転

 レイテ湾海戦の話になると必ず出て来るのがレイテ湾に突入しないで帰ってしまった第一遊撃部隊の「謎の反転」。変な電報が届いただのなんだのかんだのいろんな説がありやなしや。ワシ、正直その理由には興味ないんだ。戦場では錯誤や失敗はつきもの。いちいちその理由を考えてもあまり意味ないじゃん。ワイが気になるのはむしろ突入していたらどうなったのかということだ。

 んで、以降、突入していたらどうなったのかということをシミュレーション(シュミレーションでない)してみようと思い立ったのだ。

 

第一遊撃部隊がレイテ湾に突入していたら

 第一遊撃部隊が反転したのは12時30分頃なので、仮に突入していたら。。。そうさな。1時間か2時間後にはレイテ湾に突入していたかもしれない。つまりは13時30分から14時30分くらいだろうか。昔は昼メロとかをやっていた一日で一番テレビがつまらなくなる時間帯だ。この時点で戦力は戦艦大和、長門金剛榛名、重巡羽黒、利根、軽巡矢矧、能代、駆逐艦6隻が健在であった。

 昼メロはともかく、突入した戦艦大和以下日本艦艇はレイテ湾に停泊する輸送船団に戦艦大和が46cm砲を発射、他の戦艦、重巡も次々と砲弾を撃ち込んだ。そして砲弾は次々と米輸送船に命中、船団は地獄と化した。地上に揚陸した人員、物資も戦艦群の砲火から逃れることはできずに地上は逃げ惑う兵士と燃え盛る物資で凄惨な状況となる。

 マァ、ここらへんがみんなが考える突入後の想像図。ただそううまくはいかない。ここまでの過程で第一遊撃部隊の将兵は三日三晩の激闘を戦い抜き疲労はピークに達している。艦艇も戦艦大和はほぼ無傷であるが、金剛はサマール沖海戦での敵機の機銃掃射により測距儀不能、長門は24日の戦闘で命中弾2発、至近弾2発を受け速力が21ノットに落ちており、榛名はマリアナ沖海戦の損傷により26ノット程度しか発揮できなかった。重巡でも利根は無傷であったが羽黒はサマール沖海戦で1発の命中弾を受けており、出撃時には15隻いた駆逐艦も6隻に減少していた。

 

連合軍戦力

 これに対して連合軍はどうだったのかというとだ。レイテ湾には戦艦6隻、重巡洋艦3隻、軽巡洋艦3隻、駆逐艦多数を擁していた。戦艦6隻の内訳はメリーランド(1921年)、ウェストバージニア(1923年)、ペンシルバニア(1916年)、ミシシッピ(1917年)、テネシー(1920年)、カリフォルニア(1921年)の6隻でいわゆる「旧式戦艦部隊」である(カッコ内は竣工年)。

 但し、それはそれ第二次世界大戦中に10隻も戦艦を竣工させた米海軍からみた場合の旧式戦艦だ。艦齢からすると日本海軍の戦艦長門(1920年)と同時期の竣工で金剛(1913年)、榛名(1915年)よりも新しく建造された戦艦で、むしろ竣工年で言えば大和(1941年)以外は日本戦艦の方が旧式であった。主砲は戦艦メリーランドとウェストバージニアは長門と同じ40.6cm砲を装備しており、他の戦艦も金剛型と同じ35.6cm砲を装備している。

 

どう考えてもフルボッコでしょう

04_シブヤン海の武蔵

 

 単純に火力を比較してみても日本艦隊は戦艦大和の46cm砲は別格として40.6cm砲装備の長門1隻、35.6cm砲装備の金剛型2隻に対して米戦艦は40.6cm砲装備の戦艦が2隻、35.6cm砲装備の戦艦が4隻である。そして米軍は戦艦以外にも重巡3隻、軽巡3隻、駆逐艦多数を配置している。これら大戦力を相手に大和がどれだけ奮闘するかによるが、40.6cm砲装備の戦艦が日本側が1隻であるのに対して米軍は2隻、35.6cm砲装備の戦艦は日本側2隻に対して米軍は4隻、重巡、軽巡は日本側各2隻に対して米軍側各3隻と数で米軍が有利だ。

 こうなると日本側の唯一のアドバンテージは戦艦大和の存在ということになる。仮にレイテ湾に突入した場合、戦艦大和がどれだけの働きをするかに作戦の成否はかかっているといえそうだ。ただし栗田艦隊は2日間に及ぶ戦闘を経てほとんどの艦が被弾、乗員は疲労の極みで艦隊はポンコツ化している。

 これに対して米艦隊は戦艦扶桑、山城を葬った時と同様に万全の体勢で待ち構えている。これらの戦艦部隊はスリガオ海峡海戦で日本の戦艦部隊を一方的に殲滅させて士気は天を突くばかり。十分な砲弾を準備して待ち構えている。日本艦隊が海峡に入るなり一斉射撃開始だ。

 T字戦法で待ち受ける米戦艦部隊に対して日本艦隊がどういった侵入をするのかは分からないが、被弾して21ノットしか出ない戦艦長門、10m測距儀が使用不能で正確な主砲の射撃ができない金剛、26ノットしか出せない榛名は戦力としてはあまりに心もとない。米艦隊の集中砲火と駆逐艦の水雷攻撃の前に次々と沈んでいくだろう。

 

 

どうあがいても無理

 まあよい。それでも日本艦隊は様々な偶然が重なり奇跡に次ぐ奇跡が起こり米軍の護衛部隊を壊滅させたとしよう。巡洋艦も駆逐艦も全滅させた。そうだとしても日本艦隊の損害も尋常ではない。長時間の砲雷撃戦の末、被弾しまくっている戦艦大和と駆逐艦数隻がわずかに残った程度であろう。そのボロボロの状態で輸送船団への攻撃や艦砲射撃を行うことになる。

 1942年のヘンダーソン基地艦砲射撃では戦艦金剛と榛名が2時間程度三式弾を撃ちまくったが翌日にはヘンダーソン基地から航空機が離陸して日本軍を攻撃している。万全の状態ですらこの程度だ。満身創痍の戦艦、それも長時間の戦闘で乗員は疲弊、砲弾もかなり消耗している。この状態で行う艦砲射撃では戦略に影響を与えるほどの損害を与えるのは不可能。無理無理。

 上記のシミュレーションはあくまでも水上艦隊同士の戦いだが、航空機の存在も忘れてはいけない。北方には無傷の第38任務部隊があり、周辺には数群の護衛空母部隊が存在する。レイテ湾付近で日本艦隊と米艦隊が交戦状態になればこれらの空母部隊から航空機が殺到することになる。真っ昼間の戦闘なので米軍攻撃機は十分にその破壊力を発揮することができる。まあ日本艦隊は瞬殺だ。

 どうあがいても日本艦隊がレイテ湾に突入することは不可能だし突入したとしても米軍の輸送船団に損害を与えるなんて夢のまた夢、夢日記、夢芝居。シミュレーションした自分がバカらしく思えるレベルの話で勝てるはずがない。

 

戦艦大和無敵伝説

05_戦艦大和

 

 ここからが大切なところ。周知のようにレイテ沖海戦で一番みんなが注目するのは第一遊撃部隊がレイテ湾に突入直前で謎の反転をしたこと。なぜ注目するのかといえば突入すれば米軍に大損害を与えることができたという期待があるからだ。

 だけど上記のようにどう考えても日本艦隊に勝ち目はない。なのに何故期待されるのかといえばそれは恐らく戦艦大和の存在だろう。排水量65,000トンの巨体に46cm砲9門を装備する浮かぶ城。この最新鋭の巨艦が突入していれば戦局は変えられたはずだという期待があるのではないか。

 実際、米軍のサイパン島進攻の際にも戦艦大和をサイパンに突入させる計画があった。戦艦大和が行けば米軍なんて木端微塵に粉砕されるはずだ。そんな信仰が海軍にあったとしても不思議ではない。

 戦艦大和はレイテ沖海戦を生き抜くが1945年に坊ノ岬沖海戦で撃沈される。この時は片道切符で生還の見込みがない出撃だったが、海軍の中枢部では実はワンチャン沖縄にたどり着いて戦局に影響を与えるという期待があったのではないのかとワイはちょっと思っている。

 戦中の人達が大艦巨砲主義から抜け出せないのは仕方がない。だけど戦後の人間まで戦艦大和の戦力を過大評価するのはどうかな。シブヤン海海戦で武蔵、坊ノ岬沖海戦で大和が撃沈された際、大和型戦艦が圧倒的な強さを見せたのかといえばそんなことはない。航空機の波状攻撃の前に大和型戦艦はなすすべもなく撃沈された。重装甲であった故によく耐えたという位が唯一他の戦艦と違ったところだ。

 

謎の反転が多くの乗組員を無駄死にから救った

 大和の能力を適正に評価すれば栗田艦隊の謎の反転なんてどうでもいいことだ。どうせ突入してもなすすべもなく撃沈されるだけ。むしろ栗田中将の決断のお陰で生き残ることができた乗組員も多かったのではないのか。西村祥治中将はレイテ湾に突入した結果、駆逐艦1隻以外は全滅、栗田健男中将は突入せずに反転した結果、戦艦4隻以下艦隊の数千名の乗組員を死なさずに済んだ。

 現在を生きるワシの価値観では栗田中将の判断に軍配を上げるな。そこで死なずに済んだ人達が戦後の日本の復興を支えたんだから。

 

こんな感じ

 とまあこれがワシのレイテ沖海戦で栗田艦隊がレイテ湾に突入していたらのシミュレーション(シュミレーションではない)。ワシの記事に事実誤認があればバンバン指摘してくれ。それ以外にも「自分はこう思う!」など思いのたけをコメント欄に書いておくれ。但し、誹謗中傷や否定するのはダメ。ワイに対してもダメだしコメント欄に書いてくれた人に対してもダメ。たのしくね。

 

レイテ沖海戦<新装版> (PHP文庫)
半藤 一利
PHP研究所
2023-07-15



 

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