鈴木拓也 著
吉川弘文館 (2016/6/3)

 

 今日は一応軍事関係ではあるが、テーマは古代。奈良時代末期から平安時代に東北で起こった大戦争、三十八年戦争とその後の戦乱について書いた本を取り上げてみたい。私のブログを見てくれる人はほとんどがミリタリーファンだと思うが、古代軍事史に興味がある人は少ないと思う。私は学生時代に専攻していた関係上、ある程度は興味がある。

 三十八年戦争とは、8世紀後半から9世紀前半までの時代に東北で起こった大規模な戦乱だ。本書ではさらに9世紀後半までの時代を扱う。三十八年戦争とはあまり知られていないが、坂上田村麻呂が活躍した時代だと言えば分かる人もいるだろうか。

 内容はかなり細かい。学術論文と言っても過言ではない内容だ。それもそのはず、本書の執筆者は古代軍事史に詳しい古代史研究者だ。私も著者の論文には随分お世話になった。専門の研究者が書いたものだけに内容は正確だ。最新の研究も取り込んでいるのでこの時代に興味がある人にはうってつけの書だろう。

 さらに優秀な将軍であった坂上田村麻呂についても知りたいという人にもおすすめだ。軍事史のみならず時代そのものを記しているので軍事史にしか興味がないという方にはちょっと向かないかもしれない。ただ、軍事というのは経済や社会の状態と密接にかかわっているのでどうしても軍事以外の事柄も把握しなければならない。上記のように内容は正確である程度網羅されているが、やや通史、概説的な冗長さを感じてしまった。

 まあ、普通の「読み物」ではないので仕方がないかもしれないが、正直、ちょっと退屈だった。これは著者のせいというよりも出版社から求められた要求がそうだったのだろう。私としては一つのテーマ、ジャンルを掘り下げてくれた方が良かったが、本書はむしろ資料としての使用や辞書的に使うのがいいと思う。

 

蝦夷と東北戦争 (戦争の日本史)
鈴木 拓也
吉川弘文館
2008-12-01