クリストファー・ショアーズ、ブライアン・カル・伊沢保穂 著
大日本絵画 (2001/12)

 

 本書はイタリア人ルーカ・ルファート氏、オーストラリア人マイケル・ジョン・クラーリングボールド氏によって書かれた太平洋戦争初期のラバウル、ラエ周辺の台南空と連合軍の航空戦の実態を調査したものである。ソロモン航空戦まではカバーしていない。

 近年、この種類の著作が多く出版されているが、本書はポートモレスビーで育った著者がその地域で起こった戦闘を調査するという地域史的な要素を持つ異色のものだ。オーストラリア人の著作であるため、連合国軍側の視点で描かれていると思っていたが、読んでみると、著者は日米豪それぞれの国のパイロット達に対して非常に尊敬の念を持っていることがわかる。

 

 やっと読み終わった586ページとにかく長かった。。。それも基本的に内容が調査結果の報告書のようなものなので淡々と時系列に沿って書かれており読むのに結構骨が折れた。ただ内容は値段相応の価値は十分にある。本書は1941年から1942年2月シンガポール陥落までの連合国軍側から見た第二次世界対戦のアジア 南方航空戦だ。

 私は今までずいぶん戦記ものを選んできたが 連合軍側からの記録を読んだことはあまりなかったので新鮮だった。内容は時系列でまとめられ曜日ごとに区切ってあるので後で検索するときに分かり易い。これは読み物というよりも資料としての価値がある。基本的には連合国軍側から見た航空戦であるが、航空戦史の専門家である伊沢保穂氏が共同執筆者として参加しており、日本側からの記録も提供されているようだ。

 連合国軍側はアジアを軽視しており、二線級の航空機その他兵器を低い優先度でアジア方面に配備していったことが分かる。つまりは日本軍の快進撃というのは、物量と兵器の性能で勝っていたからこそのものだった。兵器の性能で勝っていたといっても連合国軍側は二線級の航空機を少数しか持っておらず(B-17フライングフォートレスはあった)、それも大半を地上で撃破していた。

 

太平洋戦争初日フィリピン島クラークフィールド地区に米軍機の主力がいたんですが、その大半を日本は地上で潰した。後の残りカスを圧倒的な数の差で押し潰していったのが最初の半年でそれ以降はむしろちょっと負け気味です。
清水政彦・渡邉吉之『零戦神話の虚像と真実』

 

 本書を読むとこの清水氏の指摘が的確であったことがわかる。日本の戦闘機搭乗員の手記などを読むと、この初戦でのフィリピン航空撃滅戦は日本軍の圧倒的勝利で、撃墜戦果も圧倒していたように思われがちだが、それらの戦果の多くは誤認であった。日本人の私としては残念な気持ちはあるが、まあ、戦果が過大なのは昔から分かっていたことだ。むしろ、より正確に近い事実をしることができて良かった。

 全体的に梅本弘氏の著書に比べると航空戦の搭乗員が誰であったか等が若干大雑把な印象を受けるがこういった調査は時間と手間が極端にかかる。それに対して残念ながらニーズがそれほどないだろうからこういった調査をしてくれる人は貴重な存在だ。これからも続けて欲しい。出版されたら私は必ず買うので。

 




 


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