本書は、「走り者」「牢人百姓」と呼ばれた逃亡する百姓に焦点を当てた異色の本。九州の史料に基づき検討されている。内容は通常考えられているように江戸時代の百姓は農地に縛りつけられていたのではなく、その土地の大名の条件が厳しければ逃亡し他領で耕作を営んだ。
領地から逃亡された大名は、当然呼び戻そうとし、他領から百姓が来た大名は歓迎するどころか誘致することすらあったようだ。この背景には農地の拡大と百姓の不足があった。耕作地が多すぎた(年貢は土地に対してかけられる)百姓たちは、流れてきた他領の百姓に対し好意的であったという。
後半は、百姓が逃亡する原因となった大名の台所事情に焦点を当てている。大名が為替の変動等を気にしながら米を売却していることや大名に金を貸す商人たちの存在等。この時代に暗い私にとっては勉強になった。逃亡する百姓の逃亡範囲は領地を超えた昔からの生活圏で親戚等を頼ったようだ。領地と庶民の生活圏が一致していないというのは考えてみれば当たり前の話だが目から鱗だった。
全体的に史料が列挙されている等、学術的な要素が強く、一般書と学術書の中間位という感じだろうか。読後感としては史料が九州の一部地域にに限られており、時代も江戸時代初期から中期位までの範囲に限られていることから(後期についても触れている部分も少しある)、全国について同様のことがあったのか、また時代と共にどのように変遷していったのかは不明である。そこらへんも言及していればより良かった。
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