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零式水上機

武井慶有 著
潮書房光人新社 (2015/11/1)

 

 飛行艇空戦記が意外と少ないのでとうとう水偵空戦記にまで手を出してしまった。まあ、水偵も飛行艇だけどね。内容は面白い。これは著者自身の筆によるものなのではないだろうか。描写が非常にリアルだ。著者は甲飛7期、飛練24期なので部隊配属になったのは昭和17年12月。ソロモン方面に配属されたのが昭和18年8月ということなので一年弱内地での配置であったようだ。

 因みに飛練24期というのは予科練の丙飛7期、8期も一緒に訓練を受けている。これらの期は太平洋戦争後期に大量投入され多くの隊員が戦死したクラスだ。初の戦場はソロモン諸島であった。太平洋戦争初期に水上機で編成された九三八空に配属される。ここでの作戦の描写はかなりの緊迫感だ。探照灯に照らされるという経験を書いた本を私は初めて読んだ。一本に照らされると数本の探照灯が集中し、前が見えなくなってしまうという。

 めちゃくちゃな操縦をして回避すると今度は突然真っ暗になるという。探照灯から脱出した証拠だ。この生々しい描写はかなりの迫力がある。この中で二号爆弾というものが登場する。二号爆弾とは今でいうクラスター爆弾のようなものだ。空対空爆弾といってもいい。空中で投下すると一定時間で爆弾を留めているリングが外れる。そうすると子爆弾が数発ばらまかれる。実際、撃墜戦果もあったようだ。

 ここら辺は梅本弘『ガ島航空戦上』に実際の戦果があるかもしれない。著者の貴重な経験としてはソロモン戦で陸軍中将今村均を自身の飛行艇で運んことだろう。運んでいる最中は気付かなかったという。トラック島空襲を地上で体験したのち潜水艦で内地に帰還する。その後、台湾沖で筆で「大」と書いたような浮遊物を見つける。

 

浮遊物は確かに人間の死骸のようである。浮遊物はどれもみな水ぶくれで、その胴体や手、足は丸々としていて、着用している軍服は、いまにも敗れんばかりにふくれあがっている。また、その両手両足を一杯に開いているので、上空から見ると、”肉太に書かれた「大」の字”のようにみえていたのであった。
(『零式水偵空戦記』より転載)

 

 「大」は撃沈された輸送船に乗っていた陸軍兵士達であったようだ。著者は哨戒中に敵潜水艦を撃沈する戦果も挙げた。もちろん撃沈された潜水艦の乗員も上記のような状態になったのであろう。戦争は絶対に起こしてはいけない。本書には予備学生の士官に対する不満が多く書かれている。予備学生は海兵出身の士官から殴られ、その鬱憤を予科練出身の下級兵士に晴らしていたのだという。

 そうとう頭にきていたようだ。ただ、それは一部の予備学生士官なので全ての予備学生士官がダメだった訳ではない。これは海兵出身者にも同様のことがいえる。土方敏夫『海軍予備学生零戦空戦記』等を読むと今度は予備学生側からみた海軍というのが見えて面白い。著者は特攻待機の状態で終戦を迎えるが、その描写は淡々としているというかどうも今ひとつ実感がわかなかったようだ。場所が大湊だったことも影響しているのだろう。

 因みに著者が実戦で使用した兵器の中に「誘発弾」というものがある。これは、磁気感応機雷を破壊するための爆弾で、長さ30cmくらいのもので船舶のスクリュー音と類似の作用を出すことができ、機雷を爆破することが可能だったという。二号爆弾といい、誘発弾といい、あまり知られていない兵器があるものだと思った。二号爆弾は海軍戦闘機隊が使用した三号爆弾の前型なのだろうか。うーん、よくわからない。

 本書を読めばわかるが描写が非常にリアルだ。戦記物の多くがゴーストライターを使用しているらしいが、これは著者が自分で書いたように感じる。理由はうまくいえないが、何か行間から滲み出てくるものがあるという感じだろうか。非常に勉強になる本であった。

 

 

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01_予科練の空
(画像はwikipediaより転載)

 

「石塚兵曹、敵が射線に入ったら知らせろ。機をすべらす、遅れるな」
「ハイッ!射線に入ったら知らせます」

 

こちらが海面を這うようにしているので、敵も効率のよい急角度では突っ込んでこれない。後上方の浅い角度に定針しようとしている。

後席の機銃がこれに連射をつづける。突っ込む敵機の機軸が、こっちに正向する。その直前、

 

「射点に入る、すべらせー!」

 

と叫ぶやいなや、途端に体がガクンと機体にぶっつけられる。旋回計の鉄球があらぬ方に飛んで、すごい力で体が機体に押しつけられ、肩と頭でようやく支える。

その一瞬、ダダダダと重機銃の斉射音とともに赤、青の曵痕跡が、右の機翼をかすめて流れた。危機一髪、まずは第一撃はかわし得た。

(本間猛『予科練の空』より引用)

 

 1944年10月フィリピン。著者、本間猛兵曹が偵察員を務める重巡利根所属の零式三座水偵はF6Fヘルキャットの追尾を受けていた。操練30期出身のベテラン操縦員松本良治少尉の操縦で零式水偵は山間部を低速、低空で飛行する。高速の新鋭戦闘機ヘルキャットでは速度が早すぎるため迂闊に突っ込むことができない。零式水偵の低速を活かした熟練の戦いであった。

 

本間猛『予科練の空』

本間猛 著
光人社 (2002/11/1)

 

予科練とは・・・

 本間猛氏は予科練乙種9期。太平洋戦争で最も活躍したクラスだ。それだけに死亡率も異常に高い。同期は191名。その内167名は戦死、さらに生き残った24名もほとんどが戦傷を受けている。五体満足で終戦を迎えた同期はわずか3〜4名であった。

 当時、海軍の搭乗員になるには海軍兵学校から飛行学生へ行くコース、水兵から操縦練習生になるコース、そして15〜16歳の少年からパイロットを養成する予科練の3つのコースがあった。本間氏はその9期。同期には台南空の撃墜王として著名な羽藤一志がいる。

 予科練の訓練は時期により変わるが本間氏の時代では約4年。まず海軍軍人としての基礎や数学などの基礎科目を学び航空隊員として成長していく。当時の搭乗員には操縦する操縦員と航法、偵察を専門に行う偵察員に分けられる。当然、訓練生のほとんどは操縦員、特に華やかな戦闘機搭乗員を目指していた。

 

高度な専門性が必要な偵察員

 本間氏は飛行艇偵察員。著者はこの配置に対する感想を書いていない。しかし飛行艇偵察員とは操縦員に匹敵する非常に高度な知識を経験を必要とする職種である。当時の航空機は無論GPSなどなく、偵察員と呼ばれる航法専門の搭乗員が測量する。測量には天体航法、地文航法、推測航法の3種類の航法がある。

 天体航法とは星の位置から現在地を割り出す方法、地文航法とは地形の形から現在地を割り出す方法である。これらの中で最も難易度が高いのが推測航法であった。航法とは基本的には速度と距離、方角で現在地を割り出す。しかし航空機の場合、風に流されるのでその偏差を修正しなければならない。推測航法とは地形や天測を行わずこれらの数値だけで位置を測定する方法である。

 

実戦部隊配属、南方の最前線へ

02_九七式大艇
(画像は九七式大艇 wikipediaより転載)

 

 これら高度な技術を身に付けた本間氏が最初に配属されたのは飛行艇部隊のメッカ横浜航空隊である。当時の横浜航空隊は九七式大型飛行艇、通称九七大艇である。この九七大艇は全幅40mの巨人機であった。航続距離は6771kmという凄まじいものだった。しかし武装となると20mm機銃1挺に7.7mm機銃4挺と貧弱な上、装甲は無きに等しかった。

 飛行艇は通常、戦闘任務ではなく偵察、輸送、人命救助などの支援任務に就く。しかし当時の海軍航空隊は飛行艇での雷撃も行った程で横浜航空隊も後方とは程遠いマーシャル諸島に派遣され最前線での活動となった。このため「消耗品」と呼ばれた搭乗員の負担は激しく、精神的な疲労と共に戦友達の多くは冥界に旅立ってしまった。本間氏はソロモン方面含め数々の修羅場を体験していく。この間に乗機は「空中巡洋艦」と称された二式大艇に変更された。

 

 

 

重巡利根水偵隊へ転属

03_重巡利根
(画像は重巡洋艦利根 wikipediaより転載)

 

 1944年2月、本間氏に内地での教員配置が命ぜられる。平和な空気を満喫したのもつかの間、半年後には重巡洋艦利根搭載水上機の搭乗員を命ぜられる。乗機は三座水偵で、1940年に制式採用された愛知飛行機製水上偵察機である。最高速度367km/hと低速ではあるが、太平洋戦争初戦期には活躍した機体であった。

 当時の戦艦や巡洋艦に搭載されていた水上機の搭乗員は実戦に出る機会が少なく比較的練度の高い搭乗員が多く在籍していた。本間氏の操縦員松本良治少尉も下士官から士官に昇進した特務士官であり本間氏の上を行く熟練搭乗員であった。

 

高速偵察機「彩雲」搭乗員として

04_彩雲
(画像は偵察機彩雲 wikipediaより転載)

 

 このペア(同乗している搭乗員をそう呼ぶ)で本間氏はあのレイテ沖海戦に参加することになる。その結果は周知の通り惨敗。大型艦の出番が無くなったため艦載水偵隊は解散することとなる。解散した熟練者揃いの水偵隊の搭乗員は陸上機に転科することになるが、低速水偵で苦い思いをした水偵隊員達の一番人気は高速偵察機彩雲であった。

 水偵隊が陸上機に転科する時、ペアはそのまま維持される。本間氏のペアも彩雲を希望した結果、希望が通り水偵時代そのままのペアで偵察機彩雲で最後の戦場に出るのだった。

 

 

まとめ

 

 本間猛『予科練の空』は、あまり注目されない飛行艇偵察員の戦記である。熟練搭乗員であった本間氏は太平洋戦争初戦から終戦まで最前線で戦い続ける。登場した航空機も九七式大艇、二式大艇、零式水上機、彩雲と多彩である。搭乗員から見た航空機という視点は重要である。地獄の戦場を体験することは多くの人にとってはないだろう。本書はその経験を凄まじい臨場感を以って伝えてくれる。夢中になって読んでしまった。

 

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