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日清戦争

 

 本書の執筆者、原朗氏は経済史が専門とのこと。私は経済史の研究者には暗いので残念ながら原氏の存在は初めて知った。それはともかく本書は著者が2012年に行った講演を文章化したものであり、明治から太平洋戦争までの期間を概論的にみている。

 本書だけではないが、日清日露戦争関係の本を読むと必ず司馬遼太郎『坂の上の雲』が登場する。私が読んだ本は大体『坂の上の雲』に対して批判的であるが、逆にここまで影響を与える司馬氏の作品というのはちょっとした脅威である。

 

坂の上の雲 『坂の上の雲』(さかのうえのくも)は、司馬遼太郎の長編歴史小説。著者の代表作の一つとされる。 1968年(昭和43年)4月22日から1972年(昭和47年)8月4日にかけ産経新聞夕刊に連載。単行版全6巻(文藝春秋、初版1969年〜1972年)、文庫版全8巻(文春文庫、初版1978年、島田謹二解説)で刊行。
(wikipediaより一部転載)

 

 司馬氏は本人も自分の作品はフィクションと語っているが、俗に「司馬史観」と言われる独自の史観はいわば日本人の隠れた正史と言ってもいいくらいに日本人の歴史観に影響を与えている。とくに『坂の上の雲』はその最たるものだ。私もだいぶ前に読んだが、原氏と同様の疑問を感じた。原氏の司馬氏批判を簡単に説明すると、司馬氏の「明るい明治と暗い昭和」という構図が決してそうではないということだ。

 司馬氏が全く触れていない「旅順虐殺事件」や義和団戦争において「日本軍は一兵も略奪はしなかった」としている『坂の上の雲』に対して事実は「馬蹄銀事件」と言われる略奪事件を起こしていることなどを指摘している。

 本書ではさらに日露戦争も日本がロシアに勝ったというよりも「痛み分け」という程度のものでしかなかったという。日本海海戦で完全勝利したにもかかわらず日本から和平交渉を持ちかけているのが何よりの証拠だ。結構、読んでいくと気が重くなる内容であるが、歴史には明の部分もあれば暗の部分もある。戦争に関して言えば世界中の国家がこの明暗を持っている。日本もまた例外ではないということだろう。

 講演を元にした本なので全体的に根拠の提示等があまり行われていないが、この時代の歴史を学ぶためには本書は一読することをお勧めする。ただ、これはこの著者の見解であって、別の思想を持っている人はまた別の見解を持っている。歴史以外にもいえることだが、一冊の本のみで歴史を理解してはいけない。

 

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戸高一成 著
KADOKAWA (2012/2/10)

 

 戸高氏の『海戦からみた』シリーズの多分2作目。タイトルの通り日清戦争を描くのだが、幕末の海軍伝習所から始まるのがあたり前といえば当たり前だが、ちょっと面白い。幕末に幕府内で海防が問題となった時に、「軍艦だけではダメだ。海軍生の養成が第一だ」という意見書を出した下っ端役人がいた。それが勝海舟だったという。

 勝海舟が優秀であり、自分の意見をはっきりと主張したのもすごいが、下っ端(非役の旗本・御家人)の意見を国防方針として採用した幕府もすごい。これは幕府が柔軟だったというよりも明確な方針が無かったというのが正しいだろう。それはそうと、日本と清国はそもそも連繋して列強と対抗するという考えもあった。しかし清国は有力な政治勢力を持たない上にお互いの対抗心や脅威感から連携相手とはみなさなくなったという。その結果、戦争が始まる。

 

日清戦争は単なる軍隊としてではなく、「科学技術の総合組織としての海軍の戦闘能力を示した戦争であり、その勝敗は両国の近代化の達成度を象徴するものだったのである。
(『海戦からみた日清戦争』より引用)

 

 日本が近代化を始めて最初の戦争が日清戦争であった。戦争の勝敗は科学技術のレベルに左右される。相手に対して高性能な軍艦や兵器を装備すればそれだけ勝率があがるのは今も昔も同じだ。さらに高性能な兵器を製造できる工場、その兵器の部品を作る工場、さらにその兵器を運用できる人間を育てること等の総合力が戦争の勝敗を決することとなった。

 本書で面白かったのは、日本の他国との戦争はすべて朝鮮半島をめぐる争いに端を発しているという視点だ。白村江から太平洋戦争に至るまで確かに朝鮮半島に端を発しているといえなくもない。それと登場してからまだ20年程しか経っていない新兵器の水雷艇を集中運用して作戦を行うという発想はまだ能力が証明され切っていない航空機で真珠湾の戦艦群を攻撃するという発想と通じているという指摘も面白かった。日本軍も意外と独創性があったのだなと感じる。

 

 

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