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日本海軍戦闘機隊

「丸」編集部編
光人社 (2011/2/1)

 

総評

 

 本書は現在では数少ない日本海軍戦闘機搭乗員の手記をまとめたものである。内容的にはやはり手記である性質上、一貫性は持たせにくいが編集者の精いっぱいの努力が見られる。現在はほとんどの方が鬼籍に入られているので非常に貴重であるが、ただ、残念なのは、それぞれの手記の初出が書かれていないのは残念であった。私が特に興味を惹いたのは航空隊司令柴田武雄大佐、倉本十三飛曹長、神山武治飛曹長の手記であった。

 

書評

 

 本書は月刊「丸」紙上に発表された海軍戦闘機隊関係者の手記を集めたものである。月刊誌は発売された時に購入しなければならず、その後の購入が困難であり、なおかつ、その後、執筆者の多くが他界してるため、このような形で出版してくれることはありがたい。

 本書の構成は基本的に戦闘機を中心に編集されているようである。最初に航空戦全般について当時参謀だった野村氏の寄稿があり、その後96艦戦、零戦、二式水戦、月光、紫電、紫電改、雷電、烈風とほぼ開発年に合わせた順序になっている。

 

目次

 

野村了介 日本海軍の空戦思想
横山保 新鋭「九六艦戦」の空戦法
羽切松雄/坂井三郎 駿馬「零戦」向かうところ敵なし
横山保 三空零戦隊 開戦の第一撃
吉田一 忘れえぬラバウルの撃墜王たち
中野忠二郎 二〇一空零戦隊ラバウル・ブイン戦記
白浜芳次郎 翔鶴零戦隊マリアナ沖空戦記
柴田武雄 わが海軍戦闘機隊と忘れざる人々
神山猛治 九〇二空「二式水戦」トラック戦記
美濃部正 夜戦「月光」比島の空に奮戦す
原通夫 知られざる夜戦「月光」隊の対潜攻撃
倉本十三 愛機「月光」で記録した一夜五機撃墜
山本重久 飛行審査部“テス・パイ”の思い出
石坂光雄 紫電「奇兵隊」対P51戦闘に燃ゆ
羽切松雄 横空「紫電改」B29ロケット弾邀撃記
中島正 初陣三四三空「紫電改」松山上空の大戦果
市村吾郎 戦闘四〇七飛行隊「紫電改」空戦記
笠井智一 撃墜王杉田上飛曹「紫電改」に死す
戸口勇三郎 本土上空で見せた局戦「雷電」の真髄
赤松貞明 忘れざるジャジャ馬「雷電」との対話
西畑喜一郎 厚木「雷電隊」小園式戦法に戦果あり
小福田租 最後の艦上戦闘機「烈風」試乗リポート
「丸」編集部 終戦時における海軍試作戦闘機

 

 戦後70年以上が経ち、本書に手記を寄稿された方の多くが他界されているので全ての手記が貴重なものであるが、特にファンから人気のある赤松貞明氏が執筆しているのが注目される。特に私の興味を惹いたのは柴田武雄氏の手記である。

 柴田氏は海軍戦闘機隊に詳しい人なら誰でも知っている人物である。太平洋戦争では主に航空隊司令という立場で臨んだ。面白いのは、柴田氏は命令する時に決して「撃滅せよ」という命令は出さなかったそうである。「撃滅せよ」というのは聞こえがいいので何となく使ってしまう司令も多かったのだろう。しかし「撃滅せよ」という命令を発し、撃滅できなかった場合には命令違反になると柴田氏は指摘する。さらに人命に関しては

 

「生命というものは、この世に生をうけた使命役割をいかんなく達成し、もって天意に応えるべきである。そして、これは普遍の真理である」
本文より一部抜粋

 

 という哲学を持っていたという。その哲学の元に被害を少なくすることに全力を注いだという。因みにこの柴田氏は結構な口下手だったそうだ。太平洋戦争前に海軍内部で戦闘機無用論が出た時、柴田氏は戦闘機は必要とその後の結果からみればかなり妥当な意見を主張していたが、源田氏等、戦闘機無用論に太刀打ちできなかったという。

 口下手であっても、上記の哲学を持ち、部下の命令違反にまで気を配る司令には人望が集まったようである。私と同様、柴田氏も運命論者であるという点も共感できた。この柴田氏の稿の中で興味深いのは、柴田氏が本土防空を陸海軍共同でやろうと思い、連合艦隊の同意を得て、陸軍の参謀本部に行った。

 そこで旧知の新藤常右衛門大佐に話したところ意見が一致し、海軍に防空関係の資料一切を提供するように要求したところ、航空主務参謀奥宮正武中佐が、

 

陸軍などに本当のことを言ったら、とんでもないことになる
本文より一部抜粋

 

 といって断ってしまった。ここに陸海軍の対立の根深さが見えると同時に、世間一般では善の海軍、悪の陸軍という二項対立で考えられがちな両者の対立は、実は海軍にも相当な問題があることが分かる。堀栄三『大本営参謀の情報戦記』でも日本空軍創設に反対したのは海軍、特に山本五十六だったことからも窺える。

 神山氏の手記も面白かった。神山氏は数少ない二式水戦の搭乗員であった。二式水戦は、速度こそ遅いものの、実は零戦より旋回性能は良かったようだ。神山氏はこの二式水戦で爆撃機の爆撃を妨害して有効弾を与えられないようにしたり、連合国軍のP38ライトニングと互角に渡り合ったという。これは日本海軍航空隊の実際の記録を丹念に調べた梅本弘『ガ島航空戦』上によっても水上戦闘機隊が通常の戦闘機に対して互角に渡り合ったことが確認されている。

 その他、雷電搭乗員の手記では雷電の離着陸の難しさ、航続距離の無さを指摘する一方、速度、上昇力、加速性能がF6Fやコルセアよりも勝っていた等、実際の搭乗員の意見だけに説得力がある。この雷電は、渡辺洋二『局地戦闘機「雷電」 』によると実は最もB29を撃墜した戦闘機であったという。

 一夜にB29を5機撃墜した倉本十三氏の手記は同乗の黒鳥四朗氏の著作『回想の横空夜戦隊』で別人の視点から確認できて面白いと思う。

 

 

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ラバウル航空隊ブイン基地
(画像はwikipediaより転載)

 

 零戦パイロットについて知りたい人という稀有な人のために「これを読めば海軍の撃墜王が良く分かる」という本を紹介。

 

秦郁彦・伊沢保穂『日本海軍戦闘機隊』エース列伝

 まずは定番中の定番。一番のポイントは海軍のエース一覧表が掲載されていること。さらには主な撃墜王の経歴が書いてある。この本は1975年に出版された同タイトルの本の復刻版なので情報がちょっと古いものや誤りもあるので注意が必要。表紙の撃墜マークの横に立っているのは谷水竹雄飛曹長。

 


ヘンリーサカイダ『日本海軍航空隊のエース1937‐1945』

 これも定番。ヘンリーサカイダは米国の戦史研究者。初版が1999年なので『日本海軍戦闘機隊』よりは新しい。同様にエース一覧表があるが、『日本海軍戦闘機隊』のものより精緻で、今まで知られていなかったエースの名前も見える。当時の搭乗員に直接インタビューもしてたり、独自取材もしている。大原亮治飛曹長のことを「ラバウルの殺し屋」と書いて抗議されたのも本書だったはず。航空機のカラー絵も多い。

 


野原茂『日本陸海軍機英雄列伝』

 1994年に出版された『海軍航空英雄列伝』『陸軍航空英雄列伝』が元になっている。基本的に表彰された搭乗員が掲載されている。多くを『日本海軍戦闘機隊』に拠っているが、水上機のエース河村一郎、甲木清美など独自に調査している。コラムにR方面部隊など、あまり知られていない航空隊のエピソードがあるのも貴重。模型愛好家のために航空機の塗装のカラー絵が多くある。

 

 この3冊を読めば日本海軍のエース、撃墜王は全て把握できる。こういう「エース列伝」はいろいろ批判されたりもしているが、愛好家であれば必読。「これらだけでは物足りない!」「もっと背景まで知りたい!」という人は下記の本もおススメ。

 

秦郁彦・伊沢保穂『日本海軍戦闘機隊』―戦歴と航空隊史話

 前述の『日本海軍戦闘機隊』の姉妹編。航空隊や戦歴について書かれたもの。パイロットが所属した航空隊や航空戦史についても詳しく書いてある。但し、これも最初に出版されたのが1975年なので情報がちょっと古いので読むときは他の書籍と情報を突き合わせながら読むことをお勧めする。

 


秦郁彦・伊沢保穂『日本海軍戦闘機隊―付・エース列伝』

 1975年初版の海軍のパイロット好きには必携の本。撃墜王、エースの一覧表、主要搭乗員の経歴、さらには航空隊史、航空戦史まで網羅している。2000年代に再販されているが、その際にエース列伝と航空隊史・航空戦史が分冊となってしまった。古くてもいいから1冊で読みたいという方にはこちらがおススメ。

 

 

零戦搭乗員会編『海軍戦闘機隊史』

 この本は海軍戦闘機搭乗員の生存者が戦後作った「零戦搭乗員会」が出版したもの。他の本と違い当事者の手によるもので史料的価値も高い。海軍航空の成り立ちから制度、訓練さらには航空戦史など海軍航空の全てをかなりの精度で網羅している。巻末には海軍戦闘機搭乗員の名簿がある。かなりの貴重本。

 

 以上、海軍の撃墜王を知るための基本的な文献を紹介してみた。最近は、航空戦史の研究が進んだことで陸軍戦闘機隊が意外に善戦していたことが判明したりと陸軍航空隊が注目されているが、海軍航空隊にも魅力的な航空機やエピソードが多くある。こちらも注目だ。

 

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