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倉田耕一

零式小型水偵
(画像はwikipediaより転載)

 

倉田耕一『アメリカ本土を爆撃した男』

 

倉田耕一 著
毎日ワンズ (2018/5/9)

 零式小型水偵で米本土を爆撃した搭乗員、藤田信雄中尉について書かれた本。戦後のことが中心。私の知る限りでは米本土爆撃について書かれた一番新しい本。藤田氏は戦後、米国に呼ばれ決死の覚悟で行くが、思いがけない大歓迎に感激する。その後、藤田氏は米国人との交流が始まるが、著者の思想的な「思い」が強すぎるのがちょっと残念だが、戦後の藤田氏の活動を知るには最上の本。

 

槇 幸『伊25号出撃す アメリカ本土を爆撃せよ』

 

槇 幸 著
潮書房光人新社 (2017/2/1)

 米本土爆撃を行った零式小型水偵の母艦の乗組員の記録。「世界で唯一の米本土爆撃」を母艦側から見た貴重な記録。著者の槇氏は知性が高く、冷静に物事を観察している。乗艦中もこまめに日記を付けており艦内の生活が細かく描かれている。伊25潜は米本土爆撃を行った飛行機の母艦である以外にも日本で唯一ソビエト潜水艦を撃沈した艦という側面もある。撃沈した時に同じ潜水艦乗りとして素直に喜べない複雑な心理も描かれている。貴重な記録であり良書でもある。

 

槇 幸『潜水艦気質よもやま物語』

 

 同じく槇氏の著書。『伊25〜』に対してこちらはエッセイ風の内容。潜水艦乗りのエピソードが数十の短編としてまとめられている。米本土爆撃についての記載もある。太平洋戦争を生き抜いた貴重なベテラン潜水艦乗りである著者の貴重な記録。潜水艦特有の恐怖や大型艦に比べ潜水艦は高級軍人も一兵卒も一蓮托生の環境にあるため一体となって和気あいあいとしているなど実際に乗艦した人でなければ分からないエピソードが満載。

 

秦郁彦『太平洋戦争航空史話』上

 

秦郁彦 著
中央公論社 (1995/7/1)

 航空史家の秦郁彦氏が米本土爆撃について書いたもの。米本土爆撃について書かれているのは一つの章だけだが、専門家の調査であるので信頼性は高い。内容も客観的に書かれている。今回紹介した本の中で米本土爆撃の計画から実行、その後まで最も詳細に描かれている。他にも38機を撃墜したアメリカ軍2位のエースマクガイアを撃墜した日本のパイロットは誰かという話やあまり知られていないが、太平洋戦争に参戦していたリンドバーグについて等、気になる航空史のエピソードが多く書かれている。

 

藤田信雄「米本土爆撃記」『トラ・トラ・トラ』太平洋戦争ドキュメンタリー01

 

toratoratora1

 

 米本土爆撃を行った藤田氏自身の手記。複数の手記をまとめた本で藤田氏の手記はその中の一つに過ぎないが、三段組30ページにわたってぎっしりと書かれているので内容は濃い。米本土爆撃以外の自身の潜偵搭乗員としての経験についても詳細に書かれている。潜偵による偵察は、偵察終了後、母艦に戻る際に母艦を発見できること、敵がいないこと、海面が穏やかなことなど複数の条件が重なって初めて母艦に回収されるという。潜偵による偵察任務がどれほど危険なのか良く分かる。他にも著名な撃墜王赤松貞明中尉の手記などもあり貴重。今では入手が困難な書籍なので古本を見つけたら取りあえず購入することをお勧めする。

 

まとめ

 

 今回紹介した書籍はそれぞれ違った面から米本土爆撃にアプローチしているため全部を読むとかなり立体的に米本土爆撃作戦を理解することができる。藤田氏の手記は入手困難かもしれないが他の本は比較的入手しやすい。作戦の詳細、そこに関わった人々、そして戦後と単に「世界で唯一の米本土爆撃」という記録だけでない物語が多くあることが分かる。

 


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倉田耕一 著
毎日ワンズ (2018/5/9)

 

 藤田氏を知る人はあまり多くはないだろう。昔一度テレビに出演したがそれを知らなければ恐らく戦史に詳しい人以外は知らない人だと思う。藤田氏は世界で唯一「アメリカ本土を爆撃した男」なのである。どうやったかというと、当時、日本は世界で唯一(たぶん)潜水艦に航空機を搭載していた。その航空機=零式小型水偵に爆弾を搭載し、潜水艦でアメリカ西海岸まで行き、そこから発進、森林地帯を爆撃したのだ。

 藤田氏は昭和7年に海兵団入団、昭和8年2月に第20期操縦練習生に採用され、同年7月に水上機操縦課程を修了した。太平洋戦争が始まった頃は操縦歴8年を超えるベテランであった。文章で書くと簡単だが、実際は大変な任務だ。日本の潜水艦が西海岸まで行くというのは、太平洋戦争初期であればそれほど難しくなかっただろう(まあ、以後と比べてね)。しかし潜水艦から発進してアメリカの防空網をかいくぐって爆弾を投下する。

 さらに海上にある点のような潜水艦を発見して帰投する。もちろん潜水艦は電波などは出さない。発見するだけでも困難なのであるが、発見出来たとしても天候次第では着水することはできない。天候が良かったとしても敵機に発見されていればむろん帰還することはできない。

 米本土を爆撃し帰還したというのは奇跡に近い。それを成し遂げた人なのである。本書は藤田氏が戦後育て上げた会社が倒産するところから始まる。その後、アメリカの招聘によりアメリカに行くのだが、内容は戦後の話がほとんどだ。戦記物の手に汗握るような迫力の描写を期待しているとちょっと肩透かしを食らうかもしれない。アメリカ爆撃時の話はほんのちょっとだ。

 私はむしろ世界で唯一アメリカ本土を爆撃した男のその後が知りたかったので良かった。こういう本の構成もありだろう。藤田氏が報復されると思い覚悟して行った米国。大歓迎され、自決用に持って行った日本刀を寄贈したこと、自費でアメリカの高校生をつくば万博に招待したこと、それに対してアメリカ大統領からホワイトハウスに掲揚されていた国旗を送られたこと等、興味深かった。

 アメリカ人の大らかさを感じるが、穿った見方をすれば、結局、藤田氏は森林に爆弾を投下しただけで、実際にアメリカに被害は与えていない。だからこその大らかさと言えなくもない。風船爆弾は実際に1000発が米本土に到達し、人的な被害も出した。その設計者にアメリカ大統領は星条旗を送れるか。逆に東京大空襲を行った米軍パイロットに日本の総理大臣が国旗を送れるか。

 本書で著者がもっとも訴えたかったことは藤田氏の功績や人柄ではない。要するに「被害国のアメリカですら藤田氏を英雄として扱ったのに日本は何もしなかった」ということを主張したいのだ。しかし、藤田氏はそもそも「英雄」として扱われたかったのだろうか。著者はどうも藤田氏には直接取材はしていないようだし、藤田氏はもう他界されてしまっている。本書は著者の「思い」が強すぎる気がする。

 

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