横山長秋 著
光人社 (2011/3/1)

 

 かなり久しぶりに戦記物を読んだので感想を書いてみたい。本書の著者は元海軍陸攻搭乗員だ。陸攻とは別名中攻とも言われる海軍の双発大型爆撃機だ。陸攻とは陸上攻撃機の略で中攻とは中型攻撃機の略だ。どちらも同じものを指す。具体的な機種でいうと一式陸上攻撃機や九六陸攻が該当する。著者はかつて九六陸攻の操縦員だった。結構戦記で一式陸攻空戦記は多いが、九六陸攻空戦記というのは貴重だ。特に著者の横山氏は太平洋戦争後半を担当した搭乗員でありながら乗機は主に日中戦争で活躍した九六式陸攻というのもまた面白い。

 著者は1943年に甲種予科練12期に入隊したのち37期飛練で訓練を受け、1944年10月から実戦部隊に配属された。太平洋戦争ももう負けが確定していた時代だ。著者の実戦部隊にいた期間は1年にも満たないが我々が普通に生きる1年とは意味が違う。生きるか死ぬかという瀬戸際に立たされた1年だ。九六陸攻は開発当初は世界屈指の新鋭機で日中戦争では渡洋爆撃に活躍した名機であるが、さすがにこの頃になると旧式化しており主に後方任務で使用されていた。

 著者も初陣は対潜爆撃である。「最新のものが最高だとは限らない」とどこぞの飛行機マンガに書かれていたが、この旧式化した九六式陸攻もまたしかり、一式陸攻に比べて速度が遅いため対潜水艦哨戒、攻撃に関してはむしろ九六陸攻の方が優れていた。

 横山氏の任務は対潜哨戒等の主に後方支援といわれるものだ。だから他の陸攻隊のように敵艦隊に突入して魚雷を投下したり爆撃をしたりということはないためこれらの任務に比べれば安全であったといえる。しかし戦争である。それも日本が劣勢に立たされている時期には後方などというものはない。横山氏も夜戦に攻撃されたり、F6Fヘルキャットに銃撃されたりと何度も死線をくぐり抜けている。特に装甲という概念すらない九六陸攻での出撃は帰還できること自体が奇跡と言って良い。

 

 

 1年弱の過酷な任務をこなした横山氏であるが、この中で特に興味深いのは九六陸攻による対潜攻撃の方法と実践が詳述されていることだ。こういう地味な任務のことはあまり記録に残らないので本にして頂けたのは非常にありがたい。それと実体験として海面への不時着水がどれだけ難しいのかというのは本書を読むと良く分かる。水偵のベテラン偵察員であった本間氏の著書『予科練のつばさ』にも書いてあったが、不時着すると搭乗員は無傷ではいられない。

 著者は自身を「悪運が強い」と言っているが、実際、幸運であったのは間違いないと思う。後方任務が中心ではあったが沖縄に物資や人員を空輸したりと危険な任務があった。戦争末期に防弾性能がほぼ皆無といってよい九六陸攻で作戦を遂行し生き残ったというのは横山氏の操縦技量が高いのは当然としても運の要素も大きかっただろう。

 

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