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 『7.62×51mm・・・Full Metal jacket!』そう叫んだ後、「ゴマ―パイル」は便座に座って、銃口を口に当てて引き金を引いた。この衝撃的なシーンで非常に印象に残っている映画『フルメタルジャケット』。。。久しぶりにどうしても観たくなってしまった。とは言っても1987年の映画。名作ではあるが、さすがに新品のDVDを買うのは勿体ない。レンタルまたはネット配信で観るか。。。いやいや近くの市立図書館であるのではないかと色々調べた結果、ブックオフオンラインで中古が何と300円で売っているのを発見。早速購入して鑑賞したのであった。

 

概要

 

『フルメタルジャケット』とは1987年に『2001年宇宙の旅』等で有名なスタンリー・キューブリック監督によるベトナム戦争を描いた戦争映画である。私には、スタンリー・キューブリック監督はそれまで戦争映画の監督という印象はあまりなく、『2001年宇宙の旅』や『時計仕掛けのオレンジ』等のメッセージ性の強いいわば「崇高な作品」を撮る監督という印象が強かった。原作はグスタフ・ハスフォードの小説『ショート・タイマーズ』である。

 本作品が登場した当時は、ベトナム戦争が終結してからほぼ10年となり、ベトナム戦争の総括的な機運もあったのだろう。『地獄の黙示録』や『プラトーン』『ハンバーガーヒル』等の有名なベトナム戦争映画が数多く上映されていた。これらの作品がベトナム戦争の定番であるジャングルでの戦闘シーンや夜間戦闘を印象的に描いているのに対して、『フルメタルジャケット』は前半が新兵訓練、後半がベトナム戦争での日中の市街戦を描いているのが特徴である。

 

ストーリー

 

新兵教育隊

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(画像はwikipediaより転載)

 

 冒頭、軽快な歌とともにバリカンで丸坊主にさせられているアメリカの青年たちの映像からこの映画は始まる。海兵隊員に長髪は許されないのだ。髪の毛を全て切られて訓練用の戦闘服に着替えた若者たちはそこで狂犬のような教官であるハートマン軍曹の暴言の洗礼を受けることになる。このハートマン軍曹のシゴキ振りは当時かなり話題となった。それもそのはず、このハートマン軍曹の役を演じている俳優リー・アーメイはベトナム戦争で実戦も経験した本物の元海兵隊の教官。当初はテクニカルアドバイザーとして参加していたものの、「本物の」あまりの迫力に急遽教官役として抜擢されたものであった。この迫力は相当なものであったらしく、罵声を浴びせられた俳優が本当に怒り出してしまったというエピソードもあったようである。因みに本来教官役をやる予定であったティム・コルセリは主人公ジョーカーが移動の際に利用した輸送ヘリのガナー役で男女問わずベトナム農民を片っ端から撃ち殺す役を演じている。

 それはともかく主人公ジョーカー達は新兵として海兵隊に入隊。ハートマン軍曹による激しいシゴキを受ける。その訓練を受け、新兵たちは一人前になっていくが、極言すれば兵隊になるということは「人を殺すことを仕事にすること」であり、一人前になるということは、同時に人間性を失っていくということでもあった。

 この訓練の中で当初から教官に目を付けられた「兵隊に向いていない」新兵「ゴーマー・パイル」二等兵は訓練から完全に脱落、連帯責任のため他の同期の恨みを買っていく。そしてある夜、同期達は共謀してゴーマー・パイルにリンチを加えるのであった。このリンチの描写は非常に生々しく、一人がタオルでゴーマー・パイルの口を抑え、もう一人が足を抑える。それを合図に靴下に石鹸を入れた「武器」を手にした同期が全員がボコボコにぶっ叩くというものであった。石鹸入り靴下は結構痛そうである。それまではゴーマー・パイルに優しくしていた主人公ジョーカーも参加せざるを得ず、一緒になってボコボコぶっ叩いた。

 この一件以来、ゴーマー・パイルは精神に変調をきたしたのと同時、射撃の能力を開花させる。それは鬼軍曹ハートマンに認められるところになるが、事件は訓練終了後の最後の夜に起こる。この夜、当直はジョーカー。彼はトイレに人の気配があるのに気が付く。懐中電灯でトイレ内を照らすとそこには狂気に満ちたゴーマー・パイルの顔があった。

 彼は実弾を込めたM14自動小銃を持ち、訓練で習った銃に対する忠誠の言葉を大声で叫び、卓越した銃の扱いを見せるが、その大声に気が付き現れた教官を射殺、自身も銃口を口に加え引き金を引く。

 

ベトナムへ・・・

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(画像はwikipediaより転載)

 

 1968年、米軍機関紙の報道員となったジョーカーは取材のため前線部隊に同行、テト攻勢さ中の激戦地フエ市で最前線に身を置くことになった。最前線では訓練所同期のカウボーイに再会するものの、小隊長は砲撃により戦死、分隊長はブービートラップで戦死してしまう。その後、狙撃兵に狙い撃ちされたカウボーイ始め隊員達は次々に戦死していく。

 多くの隊員を失いながらもジョーカー達は狙撃兵を追い詰めることに成功、狙撃兵の背後を取ったジョーカーが見たのはAK47自動小銃で狙撃を行っていた少女であった。躊躇するジョーカーに銃を向ける狙撃兵の少女、少女の銃が火を噴く寸前に仲間の銃弾により少女は斃れる。体中に銃弾を受け瀕死の状態となった少女はベトナム語で祈りの言葉を唱えたのち、片言の英語で自分を殺してくれと懇願する。迷った挙句にジョーカーはその少女を射殺することにしたのだった。

 

戦争について考えなければならない

 ついついストーリーの紹介が長くなってしまったが、特に訓練センターで新兵たちが人間性を失っていくのが印象に残る。射殺された教官、ゴーマー・パイルの自殺という衝撃的な事件が起こったにも関わらず、何事もなかったように進むストーリー。戦場ではヘリコプターから無差別にベトナム人を殺害する米兵。感傷的なシーンもなく簡単に死んでいく米兵達。監督が描きたかったのはこういった無機質な戦争の姿であったのだろう。

 後半の少女狙撃兵の戦い方も非常に洗練されたものでターゲットにした兵士に敢えて致命傷を与えず、仲間達の前でなぶり殺しにしていき、助けに来た仲間を次々と殺していくという方法であった。その残酷な方法で戦い続けたのはまだ10代前半とも思える少女であり、死の間際に祈りの言葉を唱えるという死を怖がる「普通の女の子」であった。

 瀕死の状態の少女は止めを刺してくれと懇願する。これは潔いということではない。ジョーカーの仲間であるアニマルマザーが主張したように、このまま瀕死の状態で生かしておきネズミ等に食われて苦しんで死しんでいくことになる。少女が止めを刺すことを懇願したのは苦痛からの解放だったのだろう。「優しい」ジョーカーはその気持ちを汲み取って1発で射殺する。

 そして地獄から脱出したジョーカー達は制圧したフエ市の戦場をミッキーマウスマーチを合唱しながら歩いていく。平和の象徴であるミッキーマウス。ネズミに食われることの恐怖のため殺してくれと頼んだ少女はベトナムにさえ生まれていなければディズニーランドで夢中になって遊ぶ年頃であったのだろう。

 

登場する銃器等

 

M14自動小銃

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(画像はwikipediaより転載)

 

 話が重くなってしまったが、ここで登場する銃器について解説していこう。まず主人公達が訓練センターで使用するのはM14自動小銃。この小銃は1954年に設計された自動小銃で口径は7.62mmで大戦中に米軍の主力小銃であったM1小銃の後継にあたる。M1が使用する弾薬が30-06弾であるのに対してM14は7.62×51mmNATO弾を使用する。30-06弾に比べて7.62×51mmNATO弾はカートリッジ長が短縮されているが、これは火薬の性能が高くなったためであり、同等の威力の弾薬と考えて良い。

 M1との最大の違いはフルオート機能を備えていることであるが、曲銃床である上に7.62mm弾という強力なカートリッジを使用したためにフルオートでの射撃は困難であった。このため制式採用はされたもののベトナム戦争初期に使用された後は、5.56×45mmNATO弾を使用するM16自動小銃が制式採用されM14自動小銃は一部を除いて第一線からは退いた。

 

 

M16自動小銃

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(画像はwikipediaより転載)

 

 M14自動小銃が設計された3年後の1957年に銃器設計者ユージン・ストーナーにより設計された自動小銃である。口径はM14の7.62mmに対して5.56mmと小口径化され、それまでの銃器が鋼鉄に木製ストックであったのに対してフレームにアルミニュウムを採用、ハンドガード、ストックにプラスチックを採用する等、斬新な自動小銃であった。1962年にこのM16の高性能に着目した空軍が制式採用、その後陸軍、海軍も制式採用した。

 当初は使用している火薬がM16と合わなかったために作動不良が頻発したり、作動方式がガス圧直接利用方式であったために燃えカスが付着する等の問題が起こったが、基本設計が非常に優れた銃器であるため様々な改良を加えられたM4カービンが現在でも米軍の主力小銃として使用されている。本作では戦場ではほぼ全ての米兵がM16を使用している。因みに発砲シーン以外では日本のモデルガンメーカーであるMGC製モデルガンが多数使用されている。これは銃右側面のボルトホワードアシストの形状の違いによって判別することが可能である(本作では発砲用のM16にはボルトホワードアシストがない)。

 

 

AK47自動小銃

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(画像はwikipediaより転載)

 

 1947年に設計されたソビエト製自動小銃で7.62×39mm弾を使用する。特徴はとにかく頑丈で壊れないという非常に信頼性の高い小銃である。M16、FN-FAL、G3と並んで世界4大自動小銃とも言われる名銃である。ドイツの突撃銃であるStG44の影響を強く受けた銃で、当初はプレス加工で製作されたがのちに削り出しに変更されている。

 反動が非常に強いという欠点があるものの、AK47もM16同様、基本設計が非常に優れた銃であるため現在でもロシアを始め多くの国で改良型が使用されている。

 

 

M60汎用機関銃

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(画像はwikipediaより転載)

 

 ドイツの汎用機関銃MG42をベースに開発した汎用機関銃で1957年に米軍に制式採用された。ベルト給弾方式の機関銃で、加熱するため銃身は200発程度で交換する必要がある。ベトナム戦争時にはあまりにも弾薬消費量が多く、重量もあるため「豚」というニックネームが付けられた。

 しかし他の汎用機関銃と比較すると重量は比較的軽い方である。当初は銃身に二脚が設置されていたため銃身交換時には二脚が使用できず交換に手間がかかった。このため改良型では二脚はガスチューブに設置されるようになった。総生産数は22万5000丁で現在でも使用されているが米軍では新型機関銃に変更予定である。

 通常は射手と弾薬手のチームで運用されるが、実戦では一人で使用するケースもあり、劇中ではアニマルマザーが一人で使用している。

 

 

まとめ

 

 かなり昔の作品であり、監督のスタンリー・キューブリックは1999年、ハートマン軍曹役のリー・アーメイは2018年に他界している。ベトナム戦争は現在では歴史となっているが、1987年当時は戦後10年ちょっとしか経ておらず最新の戦争であった。米国の映画の割には米軍に対して辛辣であるのは、ベトナム戦争時の反戦運動の影響を受けていると考えて良いだろう。

 ベトナム戦争は世界最強の米軍が全力を以って戦ったにもかかわらず東南アジアの小国であるベトナムのさらに北半分の政府に勝利することが出来なかった「米国で最も人気のない戦争」であり、厭戦気分になった米軍内では麻薬が蔓延して社会問題にもなった。

 本作はそのベトナム戦争をテーマにして訓練を通して人間が殺人機械に作り替えられていくという事実、これらの戦争の上に現在の平和があるという監督のメッセージは現在においても全く色あせることはない。

 

 


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