(画像は駆逐艦雪風 wikipediaより転載)

 

中村文則『銃』

中村 文則 著
河出書房新社; 第18版 (2012/7/5)

 主人公西川は偶然銃を手に入れたことにより漠然とした日常が徐々に変化していく。西川は自殺者の遺体のそばに置いてあった銃を持ち帰る。命を奪うためにのみ造られた銃に西川は魅了され、徐々に撃ってみたいという欲望が抑えられなくなってくる。西川は社会に順応するために感情を抑えることを本能的に行っている。銃によって感情の抑制が効かなくなり、内在していた虐待した母親への憎しみをたぎらせていく。偶然、アパートの隣室にいた虐待をしている女性に対して殺意を持ち始めた西川は犯行を行う直前に犯行後のことを想像して思い止まる。

 無感情だった西川は感情を高ぶらせたことにより、何気ない日常すらも素晴らしさを感じ取れるようになったのだ。それまでのフィクションのような世界は感情の籠った素晴らしい日常になり、西川は銃を捨てる決心をする。捨てに行くために電車に乗ったその時、電車で他人の迷惑を顧みずに大声で電話をしている暴力団風の男を射殺してしまう。フィクションが感情の籠ったノンフィクションになったことにより躍動感に溢れた日常を得られた反面、電車のマナー違反という些末な行為に対しても感情が爆発してしまう。平和な日常は単調であるが、刺激的な日常は危険も内在している。

 中村文則のデビュー作。他にも短編として収録されている『火』も面白い。こちらは太宰治的な文体で家庭不和から売春婦に落ちた女の自虐的な行動から「愛とは何か」を問う。因みに銃はコルト・ローマン357マグナムニッケルフィニッシュモデル。

 

豊田穣『雪風ハ沈マズ』―強運駆逐艦栄光の生涯 (光人社NF文庫)

 太平洋戦争開戦から戦艦大和の沖縄特攻まで参加しつつも生還した幸運駆逐艦雪風のドキュメンタリー。ジャンルとしては戦記文学になるのだろうか。著者は元海軍士官で艦上爆撃機搭乗員。ソロモン航空戦で撃墜され捕虜となった。戦後は記者から作家へと転向したという稀有な経験を持つ人物。文学といいつつも下調べは徹底している。元海軍士官という経歴を生かしてかなり取材もしているようだ。艦長から一水兵に至るまでの人物描写も良い。雪風が戦争を生き抜いたのは「運」だけではなく、艦長以下乗員の練度の高さがあったことが良く分かる。本書は調査が徹底しているようなので文学としてだけでなく資料的な価値も高い。

 

柳田由紀子『二世兵士激戦の記録』

 第二次世界大戦中に存在した米軍日系人部隊についての記録。著者は特に軍事関係に造詣が深いという訳ではなさそうだが、逆に客観的な視点が優れている。米国に移住した日系人は、排日政策により後続の移民を断たれた結果、古い日本人としての心を持ち続ける。太平洋戦争開戦によって日系人の若者は米国人として戦争に参加するか否かの選択に迫られた。その結果、誕生したのが第100大隊、さらに増強されて第442連隊となる。米正規軍となった後も差別的な待遇は続き、友軍を救出するために救出する友軍の兵員数以上の死者を出したこともあった。その戦場には「ママ」という声が響き渡っていたという。

 しかし明治の日本人の心が温存された日系人は「お国のために命を惜しまない」という考えの下、多くの犠牲を出しつつも戦果を重ねる。結果、第442連隊は米軍史上最も多くの戦果を挙げた部隊となった。他にも暗号解読や通訳として活躍した日系人や日本軍に入隊した日系人、戦後のGHQでの活躍までも書かれている。二世兵士について知るためには必読である。

 

おわりに

 

 まあ、いろいろと穏やかでない日々が続いているが、こんな時は読書や趣味に没頭するのが一番。不快なニュースを見ても得るものは何もないが読書をすれば知識が身に付くのでおススメ。

 

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