高橋昌明 著
岩波書店 (2018/5/23)

 

 外国の場合は知らないが、日本の場合、歴史研究は時代で分類されているのでテーマに沿った横断的な研究というのは難しい。例えば日本の戦史を古代から近代まで通して見るという研究は共同研究ではあっても個人の研究ではまずない。あったとしても時代ごとに研究者が担当して共著という形で出すというのがほとんどだ。結局は研究が細分化してしまうという問題が実はある。

 本書の著者高橋昌明氏は中世史の専門家である。それも平安時代末期から鎌倉時代あたりが主なフィールドだろう。だが、本書の内容は古代から近代の日本軍兵士に関するものまで広く押さえている。もちろんメインは中世〜近世の武士なのだが、古代近代もしっかり把握しているのはさすがだ。それも綿密に調査した上でしっかりした考えを主張している。本書は全体として一つのテーマに沿って書いておりぶれていない。

 内容も重厚だ。私は基本的に流し読みだ。本書も書店をぶらぶらしていたら目に付いたので買った程度のもので1日で読んで感想でも書こうと思っていた。しかし内容があまりにも重厚で有益なので精読した結果、読み終わるまでに1週間以上かかってしまった。武士に関すること、髪型から刀、戦術からもちろん制度やそれらにまつわる時代背景も網羅されている。

 武士に関する辞書的な本だ。いくさでは刀は相手の兜をぶっ叩き脳震盪を起こさせるために太い太刀だったのが江戸時代に細身になっていった等、一般のイメージと実際のギャップ等も書いてあって面白い。一時期、1192年が鎌倉幕府の成立年じゃなくなったことが話題になったが、その幕府についても詳細に書かれている。

 実は幕府という言葉自体が江戸時代後半のものであったり、鎌倉、室町、江戸時代には「○○幕府」という呼び方はされていなかった。さらに征夷大将軍も幕府の絶対条件ではないのだ。そうなると豊臣幕府というのもありうる訳だ。実際著者は平清盛の「六波羅幕府」を主張している。ただ、逆に「幕府でなければならない」理由もない気もする。幕府という言葉自体が再検討が必要だと感じた。

 思想関係にもページを割いており全体的に抜かりはない。最新の武士論を知りたければ必読だ。久しぶりに読んだまさに良書というにふさわしい本だった。本書のお陰でいい時間を過ごせてた。

 


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