ルーカ・ルファート、マイケル・ジョン・クラーリングボールド 著
大日本絵画 (2016/2/1)

 

 本書はイタリア人ルーカ・ルファート氏、オーストラリア人マイケル・ジョン・クラーリングボールド氏によって書かれた太平洋戦争初期のラバウル周辺の航空戦の実態を調査したものだ。近年、この種類の著作が多く出版されているが、本書はポートモレスビーで育った著者がその地域で起こった戦闘を調査するという地域史的な要素を持つ異色のものだ。

 オーストラリア人の著作であるため、連合国軍側の視点で描かれていると思っていたが、読んでみると、著者は日米豪それぞれの国のパイロット達に対して非常に尊敬の念を持っていることがわかる。これは客観的に書いてるというよりも、どちらの陣営のパイロットに対しても主観的に愛情を持って書いていると感じた。特に海軍航空隊の二空艦爆隊が無理な攻撃に出撃させられたことに対して大変厳しい調子で海軍の上層部を批判し、その無謀な命令に服従し、死んでいった二空の搭乗員達を「勇者」と呼んでいることからも分かる。

 読み進めていくと、ラバウルの夜の王者として有名な工藤重敏氏の九八陸偵での三号爆弾を使った有名な初撃墜の戦果が全く誤認であったことなども分かる。梅本氏の著作でも三号爆弾の戦果というのはほとんど無いことが判明している(梅本弘『海軍零戦隊撃墜戦記2』)。やはりあまり効果の無いものだったのだろう。

 本書でもやはり実際の調査の結果、戦果は過大に報告されている。これはどちらの陣営に関してもそうだ。日本海軍航空隊の場合、平均して7倍程度に膨れ上がっているようだ。因みに本書中には「撃墜が公認された」という表現が頻出するが、海軍戦闘機隊では個人撃墜を公認する制度はない。調査の結果、戦果が確認された撃墜を本書では集計しており、最後に一覧表にしている。これはちょっと興味深い。戦果が確認された撃墜上位者は以下のようになっているようだ。

 

撃墜機数の上位者ベストテン
笹井醇一中尉 5.5機
太田敏夫1飛曹5.3機
坂井三郎1飛曹4.3機
西沢広義1飛曹3.9機
吉野俐飛曹長3.4機
山崎市郎平2飛曹3.3機
遠藤桝秋3飛曹3.1機
山下佐平飛曹長2.7機
山下丈二大尉2.5機
米川正吉2飛曹2.1機

 

 笹井醇一中尉の自称撃墜54機には遠く及ばないが著者が調査した期間での判明している撃墜数ではトップだというのが意外であった。私は当然下士官搭乗員がトップだと思っていたからだ。 ただこの測定法だと誰が撃墜したかわからない場合は協同撃墜になるため、指揮官として空戦に参加した回数が多かったから結果的に協同撃墜が増えたという見方もできる。

 近年何かと批判されている坂井氏も実際に4.3機の撃墜が確認されている。ネット上には「偽物」的な批判をする方もいるようだが、実際に戦闘に参加して戦果も挙げているのを忘れてはいけない。本書では外国人が日本の資料を調査する困難さも書かれている。日本語はそもそも複雑であり、その上、当時の記録は手書きでさらに草書で書かれていたりもする。自然、英語で書かれた日本側の記録を参照するようになるようだ。

 その結果、資料として、坂井三郎『大空のサムライ』の英語版『samurai!』が多く引用されているようだが、この『samurai!』は、かなり内容が脚色されていることが著者によっても指摘されている。余談ではあるが、この『samurai!』の出版にまつわる経緯については、神立尚紀『祖父たちの零戦』に詳しい。

 英語版になっている資料の少なさについては、イスラエルの歴史学者マーチン・ファン・クレフェルトですらも、著作中において、日本の特攻隊員は「そのほとんどが情熱的な若者であり、良家の出身であった。」というような誤った記述をしていることからも分かる(マーチン・ファン・クレフェルト『エア・パワーの時代』)。

 逆に考えれば日本語が分かるというのはそれだけアドバンテージがあるともいえる。最後はちょっと脱線してしまったが、本書は読み物としてじっくり読んでくよりもとりあえずざっと内容に目を通してその後資料として使うという使い方が一番良いだろう。良い本だ。

 

 

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