田中三也 著
潮書房光人新社 (2020/5/23)

 

 本書は数少ない偵察機搭乗員の戦記である。著者田中氏は甲種予科練5期生として採用され、戦中はほぼ戦場で過ごした。戦後は海上自衛隊に入隊し、搭乗員としての人生を歩み続けた。2017年現在、田中氏は恐らくご健在であろう。本書の内容はまさに衝撃的だ。田中氏は水偵偵察員として実戦に参加、その後艦偵偵察員として数々の危険な偵察を遂行する。

 フィリピンでは航空機を失い、逃げのびた挙句に特攻隊に志願し、それも偶然が重なって内地に帰還できた。本当に命からがらという表現がぴったりだ。その後は有名な三四三航空隊の偵察員として数多くの空戦を生き延びた。搭乗員の戦記というとどうしても戦闘機搭乗員の戦記が人気だが、偵察機搭乗員の記録というのは貴重だし、その経験はもっと貴重だ。

 本書を読んで感じるのは本当に良く生き残ったものだということだ。読んでみればわかるが著者の参加した作戦は本当に生還率の低いものだ。そして戦争の末期にはタイトルの艦上偵察機彩雲に搭乗することとなる。彩雲はやはりかなりの俊足だったようで戦闘機に追跡されても振り切って逃げている。

 最近は戦闘機搭乗員の戦記を読みつくしてしまい、その他航空機搭乗員の戦記を読み漁っているが、戦闘機搭乗員と違い、華はないが、凄まじい修羅場をくぐり抜けていることは同じであった。一般に戦記を読む人はかなりの少数派であるが、戦争を知るために戦記を読むことは重要だと感じた。私はもちろん戦争経験者ではないが、本を通して何分の一かでも体験を知ることができる。

 

彩雲のかなたへ 海軍偵察隊戦記 (光人社NF文庫)
田中 三也
潮書房光人新社
2020-05-25