レビューの要約

 

 本書の内容は濃い。私自身は著者の価値観に比較的近いようだ。しかしどこかに違和感を感じる。それは何だか私自身よく分からない。本書で知るのは知識や価値観ではない。自分はどう考えるのかということを自分自身に問いかけながら読む本だと思う。本書は読者自身の価値観が試される本といえる。

 

本レビュー

 

 たまたま書店に行ったところ、バカ売れ状態の本書を発見した。アマゾンのカテゴリーでも一番の売れ行きだそうだ。著者は元海上自衛隊特殊部隊の創設者の一人。私はちらっと噂を聞いたことがある程度だ。その噂とはネットや書籍ではなく、人づてだ。私が著者のことを聞いた人は恐らく本書中に登場する「民間人」の一人なのだと思うが、詳しい内容は忘れてしまった。

 本書は基本的に四章立てになっている。第一章は能登半島沖不審船事件、第二章は海自特殊部隊創設、第三章は自衛隊退職後の自己鍛錬の日々、第四章は著者の国家論となっている。

第一章 海上警備行動発令 第二章 特殊部隊創設 第三章 戦いの本質 第四章 この国のかたち  本書はさらっと読める内容ではない。これは人によるだろうが、私の場合は読了するまでに相当な時間がかかった。私の知らない新しいことが多かったのと、私自身、元自衛官として考えこんでしまう内容だったからだ。特に第一章の不審船の部分では考え込んでしまって中々ページを進めることが出来なかった。

 第一章はネットで調べれば内容は大体分かると思うが、1999年、能登半島沖不審船事件というものがあった。著者はその渦中のイージス艦みょうこうで航海長として任務に就いていた。不審船に警告射撃をしている船内の緊張感の描写は生々しかった。「戦争をしない国の軍隊」が艦長以下全く未経験の不審船追撃を行ったからだ。

 警告射撃で不審船は停止した。もちろん臨検しなければならない。そこで隊員を送り込むが、要約すると状況から臨検に行った隊員は必ず死ぬと推測された。その中で臨検に向かう隊員の一人が「なぜ私が行かなければならないのか」というようなことを言う。著者は「自衛官というのはそういう仕事なのだ」というようなことを言う。隊員は「ですよね」といって準備を始める。

 

「事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に努め、もって国民の負託にこたえることを期するものとする。」

自衛隊法第52条一部抜粋

 

 

世間では知られていないが、自衛官はみなこの宣誓を行い誓約書に名前を記入する。これをしなければ自衛官にはなれない。無論私もした。著者も指摘しているように自衛隊は基本的に試合をしないプロ野球チームだ。実は多くの自衛官は実戦で戦死するとは思っていない。しかし自衛官は心のどこかにこの宣誓が刻まれている。それが「ですよね」になるのだ。

 この事件で著者は特殊部隊の必要性を痛感する。そして第二章では特殊部隊の創設について描かれている。そして著者は海上自衛隊に幻滅し、フィリピンのミンダナオ島に拠点を移す。そこで実戦を経験してきた弟子とのトレーニングの日々が続く。

実戦もやったようなことが本書の最後に書いてあるがそれは私には分からない。  最終章では著者の国家についての考え方が示される。ここで私が注目したのは、著者は本書でほとんど「愛国心」という言葉を使っていない(著者の発言、意見としては一回も使っていない)。これは著者が意図的に使用していないのだと思う。本書中に

 

「国を愛している」という人がいるが、では、国の何を愛しているというのだろう?

本文より抜粋

 

 と疑問を呈している。国とはそこに住む人々や土地だけでなく、統治機構までも含まれる。少なくとも国連の定義ではそうなっているらしい。では国家とは何なのか?となる。全て?ではどれかが欠落したらどうするの?統治機構が変わったらどうするの?領土が変わったら?国民を愛するとは1億2000万人一人残らず全てを愛するの?

これは私自身の疑問だが、著者も同様の疑問を感じているのではないだろうか。著者は結局、自然の法則、群れという原始的な感覚に落ち着いたようだ。因みに本書を読んでいてちょっと気になってしまったのだが、著者の父親は陸軍中野学校の出身で、戦時中に蒋介石の暗殺を命ぜられたという。そして撤回されていないという。

要するに任務継続中な訳だ。これって極秘任務になるような気がするけど、子供に普通にしゃべっているし、その上、本になって出版されてしまっている。これっていいの?というのがちょっとした疑問。それはそうと、本書は時間があれば是非読んでほしい。感想、結論は各人異なると思う。とにかく考えさせられる本だ。

 

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