本書は私にとっての名著『海軍零戦隊撃墜戦記』を上梓した梅本氏の新刊である。本書の特徴は著者が日米豪英等のあらゆる史料から航空戦の実態を再現していることだ。これは想像通りかなりのハードな作業だ。相当な時間がかかったと推測される。

 『海軍零戦隊撃墜戦記』は宮崎駿氏おススメの本で、有名なラバウル航空戦の後半部分を史料を元にして再現したものだ。後半部分というのは私の憧れ、岩本徹三飛曹長が活躍した時期の前後だ。本書はそのラバウル航空戦の初期の戦いについて記している。

 私が特に興味を持ったのは、零戦隊以外にも水上機部隊の活躍を克明に描いていることだ。ラバウル航空戦というと零戦隊の活躍ばかりが取沙汰されるが、零戦隊進出以前から水上機隊の戦いがあったことを知る人は少ない。

 水上機の戦闘記録をここまで克明に再現したのは本書が初めてではないだろうか。日本海軍最後の複葉機、零式観測機、通称零観の活躍や零戦にフロートを付けた二式水戦の活躍が描かれている。さらに九七大艇や二式大艇対B17の戦い等の記録も貴重だ。

 内容は日時から双方の損害、消費弾薬量にまで至る。かなり緻密に調べている。『海軍零戦隊撃墜戦記』では内容が単調で読むのが辛いという意見もあったが、私にはかなり興味深く読んだ。もちろん戦死した人数名前までも調べられる限り調べている。

 一般にラバウル航空戦は前半が日本の圧勝、後半は互角か苦戦というように考えられていると思うが、実際の航空戦を見ると、初期の戦いから空戦の度に日本側が大きな損害を出しているのが分かる。撃墜、行方不明の機数で言えば日本側が若干劣勢という程度であるが、戦死者の数は日本側が圧倒している。

 なぜそうなるのかというとアメリカ側は撃墜されても搭乗員が比較的救助されているのに対して日本側は防弾装備の不備によって「一発着火」していまうことや侵攻作戦であることもあり、生存率は低い。結局、総合的に見ると飛行機の損害は同じようでも日本側が一方的に多数の熟練搭乗員を失っているのが分かる。

 結局、救助されて再出撃することによって経験を積むアメリカ側搭乗員に対して搭乗員を消耗していく日本側というのが印象的だ。梅本氏以外の著作でもヘンリー境田『源田の剣』は彼我の搭乗員の氏名やその後まで調べているが戦闘というのは「人が死んでいる」というのがよく理解できる。戦記物は結構、「やった〜!日本の勝ちだ〜」というようにゲーム感覚で読んでしまいがちであるが、毎回の戦闘で死亡した彼我の兵士の人数、氏名を記されることによってゲーム感覚での読書を防いでくれる。

 本書中盤以降で面白いのはガダルカナル島上空での戦闘で米軍カクタス航空隊の搭乗員の口からさかんに零戦「ナゴヤ型」という新型機の存在が報告されることである。この「ナゴヤ型」は今までの零戦と異なり燃料タンクに自動防漏装置を装備し、速度は今までの零戦に比べ圧倒的に高速(F4Fより111キロ速い)で、並外れた機動性を持つという。

 無論「ナゴヤ型」なる新型機は存在しない。これは二号艦戦(三二型)が登場したという情報と戦場での恐怖心から生まれた新型機ではないかと著者は推測している。因みに「ナゴヤ型」として警戒されていたのは通常の零戦二一型であったようだ。

 航空機に関しては度々、me109やハインケル製ドイツ機との空戦を報告している。これはそれぞれ、零戦三二型、二式陸偵を誤認したものと思われる。これは私には結構新鮮だった。私は日本側の戦記やパイロットの手記は随分読んだが、連合国側のものはほとんど読んでいない。高性能の航空機は結構ドイツ製にされてしまっているようだ。

 本書は著者の今までの著書と同じように誤認戦果についても明確にしている。やはり今まで言われていたように連合国側に比して日本側の方が誤認が多いようだ。ファンには残念なことかもしれないが、著名な撃墜王、西澤廣義氏や太田敏夫氏、奥村武雄氏、角田和男氏等も相当の数の撃墜を誤認しているようだ。

 搭乗員に関しては『蒼空の航跡』でその技量の高さを知られる江馬友一飛曹長と推定される零戦が米軍パイロットを驚嘆させるような機動を行ったことや『ゼロファイター列伝』において三上一禧氏が唯一勝てなかったという奥村武雄一飛曹の技量の高さを知ることができる。

 さらに同『ゼロファイター列伝』での日高盛康氏の南太平洋海戦での決断の結果、米軍航空隊に多大な損害を与えたということも知ることとなった。ただ、前にも書いたように「日本が勝ったーばんざーい!」というような気持で本書を読むことはできない。

 本書を読んでいて一番感じたのは、R方面部隊を始めとする水上機隊の活躍である。水上機は周知のようにフロートを付けていることから通常の戦闘機に比べ機動性が劣る。にもかかわらずかなりの善戦をしていることが分かる。場合によっては米軍戦闘機隊と互角以上の戦いをしている場合もあり、そうでなくても米軍爆撃機から船団を護ることに関しては水上機隊の攻撃により爆撃を反らしたりとかなりの活躍をした。

 本書で私が一番感じたのは、米軍のパイロットは撃墜されても多くが救助されているのに対し、日本の搭乗員はそのほとんどが戦死している。それは防弾性能の悪い機体が主要な原因であり、それにより米軍に比して搭乗員の練度の低下を招いた。結局、日本軍の人命軽視の姿勢が日本空軍の戦力を奪っていくのだ。

 

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